あらすじ
無職のインテリ男 代助
代助は無職のインテリ男性。
代助は父親と兄にお金をもらって家には書生と女中さんをおいて暮らしています。
お洒落で感性が鋭すぎるようなところがある男性でした。
朝起きると自分の心臓の音を気にして、身支度に非常に時間をかけます。
ちょっとナルシストのようなところもあります。
其所で叮嚀ていねいに歯を磨いた。
彼は歯並びの好いのを常に嬉しく思っている。
肌を脱いで綺麗に胸と脊を摩擦した。
彼の皮膚には濃こまやかな一種の光沢がある。
香油を塗り込んだあとを、よく拭き取った様に、肩を揺うごかしたり、腕を上げたりする度に、局所の脂肪が薄く漲みなぎって見える。
かれはそれにも満足である。
次に黒い髪を分けた。
油を塗つけないでも面白い程自由になる。
髭も髪同様に細くかつ初々しく、口の上を品よく蔽おおうている。
代助はそのふっくらした頬を、両手で両三度撫なでながら、鏡の前にわが顔を映していた。
まるで女が御白粉おしろいを付ける時の手付と一般であった。
実際彼は必要があれば、御白粉さえ付けかねぬ程に、肉体に誇を置く人である。
彼の尤もっとも嫌うのは羅漢の様な骨骼こっかくと相好そうごうで、鏡に向うたんびに、あんな顔に生れなくって、まあ可よかったと思う位である。
その代り人から御洒落おしゃれと云われても、何の苦痛も感じ得ない。それ程彼は旧時代の日本を乗り超えている。
代助の家には門野という書生がいます。
単純な男で知性は感じられませんが、肉体労働はよくこなす男なので便利に使っています。
代助は大学を卒業してだいぶたちます。
今年三十歳になるのですが、今日まで仕事をしたことがありません。
仕事以外のボランティア等の社会活動もしていません。
資産家の息子で経済的にはまったく困ってはいないのですが、門野と女中さんはこんな風に代助をうわさします。
「先生は一体何を為する気なんだろうね。小母さん」
「あの位になっていらっしゃれば、何でも出来ますよ。心配するがものはない」
「心配はせんがね。何か為たら好さそうなもんだと思うんだが」
「まあ奥様でも御貰おもらいになってから、緩ゆっくり、御役でも御探しなさる御積りなんでしょうよ」
「いい積りだなあ。僕も、あんな風に一日本を読んだり、音楽を聞きに行ったりして暮していたいな」
「御前さんが?」
「本は読まんでも好いいがね。ああ云う具合に遊んでいたいね」