因幡の白ウサギ
オオナムジには八十神(大勢の神)の兄弟がいました。
あるとき、オオナムジの大勢の兄弟たちは因幡に住む美人の評判が高い、ヤガミヒメと結婚したいと思います。
皆で因幡に行きましたが、その時オオナムジを従者にして、荷物を持たせました。
八十神たちがぞろぞろと先にいったあとにオオナムジはうんしょ、こらしょ、と兄弟たちの荷物を入れた袋を背負って進みます。
オオナムジが気多の先までたどり着いたときでした。
そこに毛皮がむしりとられた赤裸のうさぎがつらそうに寝ころんでいました。
うさぎ
オオナムジ
うさぎさんどうしたの?
うさぎ
ここまで渡ろうと思ったけど、いい方法がありません。
そこで隠岐の島の海岸でこう言ってワニを騙しました。
そして、ああなってこうなって……
うさぎはオオナムジにこうなってしまったいきさつを語ります。
時間は少し前にさかのぼります。
そのときはうさぎはふさふさの毛皮の持ち主でした。
うさぎ
ワニさん! ワニさん!
私とあなたとどちらが一族が多いか競争しましょうよ!
うさぎ
そうしたら私があなたたちの背中の上をを渡りながら、あなたたちの数を数えます。
これで、私の一族とあなたの一族がどちらが多いかわかるでしょう!?
うさぎはそう言ってワニを騙して、一列に並ばせました。
うさぎはぴょーん! ぴょーんと!ワニの背の上を渡って、気多の先までたどり着きました。
まさに土に降りようとしとき、うさぎはワニに騙していたことを明かしました。
うさぎ
だまされた!
わたしはあなたたちの数なんか数えてなかった!
ただあなたたちを利用してここまで来たかっただけなんだよ!
ワニ
ヽ(`Д´)ノプンプン
ジャーンプ!
ガブッ!
すると一番端のワニが、海の中からうさぎにとびかかってうさぎの毛皮を剥いでしまいました。
赤裸になったうさぎが泣いていると、オオナムジの兄弟の八十神たちが通りかかって、アドバイスをくれます。
(八十神A)
「海水を浴びて、風に当たればなおるよ」
うさぎは八十神からもらったアドバイス通りにやってみたのに、肌の調子はちっともよくなりません。
オオナムジ
兄弟たちはそんな嘘をおしえたのか……
ひどいなあ
オオナムジ
それから河口にはえている蒲の花粉を取ってきて、敷き散らしたら、その上に寝転がればいいよ。
きみの肌はきっともとどおりに治るでしょう
うさぎがオオナムジの通りにすると、ウサギの肌は元通りになり、もとのふさふさ毛皮のうさぎさんに戻りました。
うさぎ
ありがとうございます。
あなたのお兄さんたちはヤガミヒメさまとは結婚できませんよ。
たとえ袋を背負っていたとしても、必ずあなたがヤガミヒメさまをお嫁さんにできますよ
その後本当に兎の言う通りになりました。
(八十神A)
「麗しのヤガミヒメさま、どうか私と結婚してください」
(八十神B)
「どうか私の妻になってください」
ヤガミヒメ
オオナムジ八十神にいじめられまくる
(八十神C)
「俺たちをさしおいて、俺たちのあこがれのヤガミヒメさまと結婚するなんて、オオナムジのくせに生意気だ―っ! ヽ(`Д´)ノプンプン」
自分たちの荷物持ちだったオオナムジがあこがれのヤガミヒメと結婚してしまったので八十神たちは、かんかんです。
醜い嫉妬はまもなく殺意へと変わります。
八十神たちはオオナムジを山のふもとにつれていくと……
(八十神D)
「この山にイノシシがいるんだよ。俺たちは猪を山の上から追い下すからお前はふもとで待っていて猪をとらえるんだぞ。もしとらえられなかったら、おれたちは必ずお前を亡き者にしてやるぞ」
八十神は山に登ると、イノシシのような大きな石を火で焼いて、そのあつあつの大石をふもとのオオナムジむけて転ばしました。
オオナムジはその大石に焼きつぶされて、命を落としてしまいました。
オオナムジの母
オオナムジのお母さんは 神産巣日之命(かむむすひのみこと)に 頼むと、神産巣日之命(かむむすひのみこと)は、オオナムジを生き返らせるために、きさかいひめ、とうむかいひめという二人の貝の女神を地上に遣わしました。
きさかいひめは自分の身(貝殻)を削って貝殻の粉を集め、うむかいひめはきさかいひめの身(貝殻)を自分の貝殻に受け入れ、貝汁と練り合わせて、母乳状にして、オオナムジに塗ったところ、オオナムジは生き返りました。
八十神はまたオオナムジを騙して、山に連れて来て、大きな木を切り倒して、ひめや(噛ませ矢)でその木を地面から少し浮かせておいて、そのなかにオオナムジを入らせます。
オオナムジが木と地面の隙間に入ると、ひめやをはずして、挟み殺しました。
オオナムジの母
こんどはオオナムジの母は大樹を切り裂いて、オオナムジを助けだしました。
オオナムジの母
そこで紀伊の国のおおやびこの神のもとに逃させました。
しかし八十神たちはオオナムジを追って紀伊の国までやってきて、おおやびこの神に矢を向けてオオナムジを引き渡すようにせまります。
おおやびこはオオナムジを木の股をくぐらせて逃がしました。
おおやびこ
きっとスサノオさまが助けてくれますよ。
スセリヒメとの出会い
オオナムジはおおやびこの言う通りにして、スサノオのところにいきました。
オオナムジはスサノオの屋敷でスサノオに挨拶するまえに、スサノオの娘、スセリヒメと出会います。
オオナムジ
スセリヒメ
二人は目が合ってすぐに一目ぼれ、結婚の約束をします。
スセリヒメがお父さんのスサノオにこう言うと
スセリヒメ
スサノオ
スサノオが娘にオオナムジのことを娘に葦原色許男命(あしはらしこおのみこと)と紹介した意味をここでちょっと深読みしてみましょう。
しこお(醜男)というのは醜い男という意味ですね。
葦原というのは古事記では高天原と黄泉の国(スサノオの住む根堅洲国)の間にある地上世界で、オオナムジの出身地です。
つまり「あしはらしこお」というのは地上世界からやってきた不細工男という意味になります。
また葦原色許男命には「色」という字が入っています。
スサノオは葦原色許男命(あしはらしこおのみこと)という言葉を使って、自分の娘のこころを奪ってしまった男のことを「不細工男」とけなしたり、「色男め」と揶揄しているようにみえます。
スサノオに試練を与えられるオオナムジ
スサノオはオオナムジを呼ぶと、蛇がいる部屋に寝かせました。
スセリヒメ
スセリヒメはそう言って、オオナムジに蛇のひれ(ひらひらとした布)を渡しました。
オオナムジが蛇の部屋に入ると、蛇に襲われそうになりましが、スセリヒメからもらった蛇のひれを、ひらひらひらとすると、蛇は離れていきました。
オオナムジはやすらかな眠りにつきました。
次の日は、スサノオは……
スサノオ
スセリヒメ
もしムカデにかまれそうになったらこの布を三回振ってムカデを撃退してください
スセリヒメはそう言って、オオナムジにムカデのひれ(ひらひらとした布)を渡しました。
オオナムジがムカデの部屋に入るとムカデに襲われそうになりましたが、スセリヒメからもらったムカデのひれをひらひらひらとすると、ムカデは離れていきました。
オオナムジはやすらかな眠りにつきました。
次にの日は スサノオはオオナムジを呼ぶと……
スサノオ
スセリヒメ
オオナムジが蜂の部屋に入ると蜂に襲われそうになりましたが、スセリヒメからもらった蜂のひれをひらひらひらとすると、蜂は離れていきました。
オオナムジはやすらかな眠りにつきました。
スサノオ
蛇とムカデと蜂の部屋に寝かせたのにへっちゃらでぴんぴんしてやがる。
だけどこんどはきっとのがれられないぞ。
スサノオはオオナムジを野原に連れ出すと鳴り鏑(射ると音が出る矢)を遠くに向けて射ました。
スサノオ
オオナムジが野原に入ると、スサノオは野原に火をつけて焼きます。
オオナムジ
どうしよう!
鼠
鼠がいるところをオオナムジが強く踏むと、地面が崩れて、オオナムジは地中の穴の中にはいりました。
オオナムジ穴に入っているうちに火事はおさまりました。
スセリヒメはオオナムジが死んでしまったと思って、喪具を持って、泣いていました。
スサノオもオオナムジが死んでしまったと思っていました。
そこにオオナムジは鳴り鏑をもって、スサノオの屋敷に帰ってきて、スサノオに渡しました。
オオナムジ
ところで「なり鏑の矢の羽は鼠の子供たちが食べてしまった」と古事記には書いてあります。
かなりどうでもよい情報に思えますが、何か意味があるのでしょうか?
オオナムジ、スセリヒメと駆け落ちする。ついにスサノオにスセリヒメとの結婚を認めてもらう。オオクニヌシの誕生
オオナムジが帰って来ると、スサノオは今度は部屋のなかにごろんと寝ころびます。
スサノオ
オオナムジがスサノオの頭をみると、そこには虱の代わりにたくさんのムカデがいました(゚д゚)!
すせりひめは むくの木の実と赤土をオオナムジに渡しました。
オオナムジが木の実を口に含み、食い破ります。
さらに赤土を口に含むと、木の実と赤土をいっしょにはきだします。
スサノオ
なかなか豪傑ではないか。
可愛い奴め……
スサノオが眠ってしまうと、オオナムジとスセリヒメはスサノオの髪の毛をいく筋にも分けて、髪を部屋にあるたくさんの柱ごとに結び付けます。
そして外にでると、五百人力でやっと引くことができる大きな石をその部屋の戸の前において、入口を塞ぎます。
そして オオナムジはスセリヒメを負ぶうと駆け落ちしてしまいました。
オオナムジとスセリヒメは駆け落ちするとき、スサノオの生太刀と生弓と天の沼琴(どれもただの太刀や弓や琴ではなく神聖な宝物)を持っていきました。
逃げる途中に天の沼琴が木に触れて、大地が動くような音がなりました。
それを聞いたスサノオが目を覚ましました。
しかしスサノオが柱に結んでいる髪を解いている間に、オオナムジとスセリヒメは遠くに逃げました。
スセリヒメとオオナムジが黄泉比良坂まで行ったところで、はるか遠くからスサノオの声が聞こえます。
スサノオ
お前が盗み出した、俺の生太刀と生弓矢でお前の兄弟を坂の稜線部までおっぱらえ!
あるいは河の瀬までおっぱらえ!
そしてお前はオオクニヌシの神になり、俺の娘のスセリヒメを正妻にするのだぞ!
そして、宇迦能山(うかのやま)のふもとに地中の岩盤に宮殿の柱を太く立て、棟には千木を空高くたてて住むがよい。
こいつめ。
オオナムジはスサノオの言う通りに生太刀と生弓矢で兄弟たちを追い払い、国を作りました。
もちろんスサノオの言うとおりに立派な御殿を建てて、スセリヒメを正妻にしました。
その後オオナムジはヤガミヒメ(覚えていますか? 八十神たちのあこがれの的だった因幡のお姫様です)とも結婚しましたが、ヤガミヒメはオオナムジの正妻のスセリヒメを恐れて、産んだ子供を木のまたに挟むと、実家に戻ってしまいました。
この子供は木俣の神(きまたのかみ)になりました。
参考文献
中村啓信『新版 古事記 現代語訳付き』株式会社KADOKAWA(平成26年)
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