谷崎潤一郎『痴人の愛』あらすじ ネタバレ ラストはどうなる?

谷崎潤一郎『痴人の愛』ナオミ

譲二は二十八歳のサラリーマン。

栃木県宇都宮市出身で中学卒業後上京します。

高等工業学校卒業後電機会社に技師(エンジニアですね)として就職します。

日曜日以外は下宿先と会社の往復。

娯楽と言えば活動写真を見たり、銀座通りを散歩したり、たまに帝劇に出かけるぐらいの地味なサラリーマンでした。

女性との交際経験もありません。

地味で真面目なサラリーマンでしたが、あるカフエでナオミという美少女に出会います。

ナオミはまだ十五歳で、カフエで女給見習いをしていました。

活動女優のメリー・ピクフォード似のバタ臭い顔立ちで、体つきも少し日本人離れしています。

またナオミ(漢字では奈緒美とかくのですが)という名前も西洋人のようで、譲二はハイカラに思えて気にいるのでした。

また無口で下働きをこつこつとやっている様子から、利口な少女に見えるのでした。

譲二は彼女を日曜日に活動写真につれていったりします。

譲二は彼女を引き取ってゆくゆくは妻に、と考えてはいます。

しかしその時の譲二はナオミにとっては「遊びにつれていってくれる親切なおじさん」以上のものではありませんでした。

二人はまったく男女の関係になる気配のない清純なものでした。

譲二がナオミにナオミの実家について尋ねるとナオミは口を濁して不機嫌になりました。

ある日ナオミから本が好きだと聞いた譲二は、ナオミに「そんなに本が好きなら女学校に行ったらいい、学問をしたいのなら僕が習わせてあげるよ」といい、ナオミに何か習いたいものがあるか聞きます。

英語と音楽を習いたいというナオミに譲二は月謝を出してやるといいます。

やる気になった様子のナオミに譲二はこういいました。

「だがナオミちゃん、もしそうなれば此処に奉公している訳には行かなくなるが、お前の方はそれで差支えないのかね。お前が奉公を止めていいなら、僕はお前を引き取って世話をしてみてもいいんだけれど……そうして何処までも責任を以て、立派な女に仕立ててやりたいと思うんだけれど」

何も躊躇することもなく二の返事で同意した彼女に譲二は驚きます。

譲二はナオミの家族に自分の計画を話にいきます。

ナオミの家族はごみごみした路地にある子だくさんの貧しい家でした。

女中が一人欲しいと思っていいたところでしたから、ナオミに家事をしてもらって、その間に一通りの教育をさせますから、どうかお嬢さんに私を預けてはくれませんか? と譲二は両親に申し出ました。

ナオミの母は譲二の提案にすぐに同意します。

譲二は年頃の娘が、一人暮らしの独身男性に同居させることに簡単に賛成してしまうナオミの母親に驚いたのでした。

譲二とナオミは「中に住むよりは絵に画いた方が面白そうな」小さな洋館で同居生活を始めました。

譲二は彼女と男と女としてではなく、少女を一人前の女性に教育してやる、という気持ちでナオミと暮らすようになりました。

ナオミは女学生のように袴をはいて、英語とピアノと声楽の教室に通うようになります。

夏になると譲二はナオミを実家に預けて田舎に帰省します。

ナオミのいない二週間は譲二にとってたまらなく短調で、寂しいものでした。

譲二は「あの児が居ないとこんなにつまらないものか知らん、これが恋愛の初まりなのではないか知らん」と思います。

一緒に海水浴にいき譲二はナオミの体の美しさに感動します。

ナオミは日に日に女らしくなり、ナオミが十六歳の春に二人は男女の中となりました。

正式な結婚は二三年後にするつもりでしたが、お互いの両親に挨拶もして事実上の夫婦となります。

譲二にとってナオミは美しい人形。

二人は日曜日のたびに町に出かけナオミが着る着物の布地を探します。

モスリンやジョーゼットで変わったスタイルの着物をつくり、それをナオミが着るのをうっとりと眺める譲二。

家の中はたくさんの衣装や布地であふれています。

そんな生活感のない、一風変わった結婚生活が続きます。

譲二はナオミを人形のように可愛がりながら、楽しい生活を送りながらもナオミを「西洋人のまえにだしても恥ずかしくない」立派な女にしたいという思いもありました。

ナオミの英語の勉強をみてやりますが、もう2年も習っているはずなのにナオミは英文法がまったくわかっていないのでした。

ナオミの英語の発音はとてもよく、ネイティブの先生に褒められるぐらいですが、ごく初歩的な英文法がわかっていないのです。

譲二はナオミに毎日厳しく教えますが、ナオミの理解はひどくわるいのでした。

譲二は「こんな簡単な理屈もわからないようでは到底、理知的な女性になることはできない。ナオミは思っていたような賢い女性ではなかった、やはり生まれが良くない者はカフェの女給が妥当なのだ……」と絶望しました。

ナオミの知性は見限った譲二でしたが、一方ナオミの肉体の魅力にはますます惹かれていきます。

ある日譲二は会社帰りに、家の門先でナオミが十八、九歳ぐらいの少年と話しているのを見ます。

馴れ馴れしい様子では少年と話すナオミに面白くない思いでいる譲二でしたが、聞いてみれば彼はナオミの声楽教室の仲間で、ナオミに今度始まったダンスクラブに入らないかという誘いで来たのでした。

それはナオミが通う声楽教室の先生の知り合いで革命騒ぎのため夫や子供と生き別れになり、日本に逃げてきたロシアの伯爵夫人が生活のために開いたダンス教室でした。

単調な毎日に退屈していたナオミは譲二に一緒にダンス教室に行くように迫ります。

ダンス教室を開くロシアの伯爵夫人はシュレムスカヤ夫人といって実年齢は三十五歳ぐらいですが、三十歳ぐらいにしか見えない貴族らしい威厳のある美女でした。

前から西洋の女性に憧れを持っていた譲二は彼女の白い肌や体から放たれる香りに魅了され、もともとダンスに興味がなかったにもかかわらず一二か月ダンス教室に通い、ダンスを習得します。

ナオミは譲二にダンスホールに行くことを提案します。

ダンスのための衣装が欲しいと譲二にねだるナオミ。

しかしそのころ譲二とナオミの家計はせっぱつまっていました。

というのはナオミが非常に浪費家だからです。

また炊事、洗濯をしないので、料理はすべて料理屋にできたものを注文し、洗濯はすべて西洋洗濯屋(クリーニングでしょうか?)に出すのでした。

また着物を毎月一枚は作り、下駄は十日に一遍は買います。

それに娯楽費、音楽や英語の月謝、交通費……

ナオミにもうそんな金はないと言うと泣き出すナオミ、その可憐さに心打たれた譲二は国元に「近頃物価が上がって、贅沢してないのに困っている……」という手紙を書きます。

すると国元からお金を送ってくれました。

お金が手に入ると、ナオミは着物を新しく作り、二人はダンスホールにでかけます。

人気女優も来るような華やかなダンスホール、袂や裾を翻して踊るナオミは美しいのですが、態度は下品でがさつ。

男友達との話し方たは男のように乱暴。

おかしな装いの女性を「猿」と呼んで本人にはわからないように馬鹿にしたりします。

譲二はダンスの帰り道、こんな女のどこがよくて結婚したんだろう? とナオミに失望を覚えます。

しかし自宅につくころにはそれも消えてなくなり、譲二のナオミに対する愛憎の念は一晩のうちに何度もころころ変わるのでした。

私はその後、始終ナオミとダンスに行くようになりましたが、その度毎に彼女の欠点が鼻につくので、帰り途にはきっと厭な気持になる。が、いつでもそれが長続きしたことはなく、彼女に対する愛憎の念は一と晩のうちに幾回でも、猫の眼のように変わりました。

ナオミと譲二の家にはナオミの男友達が訪ねてくるようになります。

浜田、熊谷、といった若い学生で主にダンスホールで親しくなった男たちでした。

彼らは夕方からやってきて、蓄音機をかけてダンスをやります。夜遅くまで遊んでいき、ある梅雨どきの夜、ひどい雨となり、ナオミは遊びにきていた浜田と熊谷に泊まるようにすすめます。

当初は二人の客が蚊帳の中で寝かせ、ナオミと譲二が外で眠る予定でしたが、ナオミの采配に任せているうちに、四人で蚊帳の中で雑魚寝になってしまいました。

ナオミが脚を開いて、片足で譲二の頭をつつき、もう片足で浜田の頭をつつき、ナオミの足と足の間に熊谷のあたまがあるという非常に挑発的なポーズをとります。

ある日譲二は会社の同僚からこんなことを聞きました。

その男は譲二がダンスホールに出かけること、すごい美人(ナオミのこと)を連れて歩いていることを、からかいます。

まるでナオミが妻ではなくて、水商売の女性のような口ぶりです。

さらにナオミについてこんなことをいいます。

「何でも偉い発展家だそうだぜ、その女は。盛んに慶応の学生なんかを荒らし廻るんだそうだから」

そんな、まさか、と思う譲二ですが近頃のナオミと男子学生たちのなれあいぶりを見れば十分に疑わしい。

雨の降る中、悲しく、恐ろしい思いで家に帰る譲二。

譲二がナオミに今日会社で聞いたことについてナオミに話すと、ナオミは笑って否定します。

育てて養ってくれた音を忘れません。と譲二にだきついて口づけの嵐を降らせます。

譲二はとりあえずほっとしますが、完全に疑いが晴れたわけではありません。

ナオミは譲二が一番ナオミと怪しいと思っている浜田と熊谷の名前を決して言わないのです。

八月になるとナオミが譲二に二人で鎌倉に行くことを提案します。

鎌倉は二人が暮らし始めた頃に行った思い出の場所です。

鎌倉での宿は、ナオミが準備しました。

ナオミの音楽教師の親戚が借りたまま使わずにいる部屋があって、ただ同然で借りれるそうです。

鎌倉に来て二三日たったある日、砂浜に転がっていると熊谷と浜田が現れます。

彼らも鎌倉に遊びに来ていたのです。

熊谷と浜田の登場とともにわっとナオミの男友達らが現れ、その晩譲二とナオミは彼らと一緒食事をします。

譲二の夏休みは十日で、後は毎日鎌倉から通勤します。

ただ同然で部屋が借りられることをいいことに、二人は一月ほど鎌倉に滞在する予定でした。

仕事が忙しくなり、鎌倉の宿につくのが11時ごろになる、そんな日が続きました。

ある晩、いつもより一時間ほど仕事が終わりました。

10時前に宿に到着すると、ナオミの姿が見えません。

宿のおかみさんに聞くと、ここ数日ナオミは熊谷や例の男友達らと夜遅くまで遊び歩いているようです。

また譲二が「関」という男の親戚の別荘だと思ってい家が、熊谷の親戚の別荘だったりと、ナオミから聞いていたことと、おかみさんの言うことが食い違っていました。

おかみさんからナオミが熊谷の親戚の別荘に毎晩夜遅く出かけることを聞きます。

譲二はナオミと熊谷の関係を確信し、現場をとらえてとっちめてやろうと覚悟をきめて熊谷の親戚の別荘にいきます。

行ってみれば熊谷の親戚の別荘は森閑としていて人気がありません。

別荘は海辺に面していて波の音が聞こえ、海の香りがします。

譲二が別荘の裏門から海岸にでるとナオミの声が聞こえました。

沢山の男子学生たちとふざけ合っている様子です。

浜辺には四五人の男に囲まれたナオミがいました。

ナオミはマントを羽織っています。

ナオミと男たちはハワイ風に腰を振って踊ったりふざけ放題。

譲二に気が付いた男たちはおおさわぎですが、ナオミは平気で譲二に「パパさんも仲間にはいりなさいよ!」と近づいてきます。

ナオミのマントが翻り、なんとその下のナオミは一糸も纏っていませんでした。

譲二はびっくり仰天、ナオミを罵りますがナオミは「おほほほほ!」。

ナオミは酔っ払っていたのでした。

怒った譲二は次の日、彼女が出かけられないように、ナオミの着物をすべて取り上げて出かけてしまいます。

譲二が向かったのは大森の家でした。

そこで男とのラブレターなど証拠の品がないか探るつもりでした。

大森の家に行くとなんとそこには浜田が!

浜田は家の合鍵をナオミから貰っていたのです。

ナオミはここのところ毎日のように、譲二が出勤すると少し時間をずらして自分も東京に行き、そこで浜田と密会をしていたのでした。

浜田はナオミを待っていたのです。

譲二が浜田から話を聞いたところ、浜田は随分前からナオミと関係を持っていましたが、彼は当初譲二とナオミが夫婦であることをしらなかったのでした。

ナオミに純粋に恋をしていた様子の浜田に譲二は怒りよりもむしろ同情と共感を覚えたのでした。

譲二は浜田からナオミは熊谷とも関係を持っていることを聞きます。

譲二は鎌倉に戻ってのち、ナオミに今後浜田、熊谷とつきあわないことを約束させます。

しかし譲二がナオミと大森の家に戻ってのち、譲二はナオミを尾行しついにナオミが譲二と密会をつづけていることをつきとめてしまいました。

ついにキレた譲二が
「出て行け!」

ナオミは
「堪忍して、……譲二さん!……もう今度ッから、……」

しかし譲二は
「畜生! 犬! 人非人! もう貴様には用はないんだ! 出て行けったら出て行かんか!」

ナオミは
「じゃあ出て行くわ」と荷造りをして本当に出て行ってしまいました。

ナオミが出て行ってから一時間ほどはさっぱりした思いの譲二でしたが後は未練たらたら。

何とかまた戻ってきてほしくてナオミを探しますがナオミは見つかりません。

実家にも帰っていないようでした。

熊谷を疑った譲二は浜田が事情を知っているのではないかと思い浜田に電話をかけます。

浜田によればナオミを昨晩ダンスホールで見たといいます。

ナオミは美しい洋装で外国人を含む何人かの男に囲まれていたそうです。

でもナオミはそんなドレスを持って家を出たわけではないのです。

浜田によればナオミは男たちの家を泊まり歩きながら、かつ着飾ってダンスホールにでかけてはしゃいでいるそう。

ただの顔見知りにすぎない西洋人の男の家にとまり、かつその男にドレスや装身具を貸してもらいダンスホールで遊んでいるのです。

譲二はナオミの不良ぶりにあきれながらも、ドレス姿のナオミはどんな美しかろうと想像もします。

譲二は浜田からナオミが鎌倉に遊びに来ていた男友達全員と関係があったことを知ります。

しかもナオミは譲二と暮らしていた部屋に男たちを連れ込んでいたのでした。

それから譲二にはいろいろなことがありました。

母親が亡くなり、譲二は東京が嫌になり田舎に帰ろうと思いました。

ナオミのごたごたで前より真面目に働かなくなった譲二は12月のある日年内いっぱいで辞職することを決めます。

そんな十二月のある日曜日、家にふとナオミが現れます。

荷物を取りに来たというのです。

その後もちょくちょくナオミは荷物を取りに来た、という名目で家に現れます。

その度にナオミはその美しさで譲二を魅了します。

次第に二人は再び親しくなっていき、あるとき風呂を使ったナオミが譲二に顔の産毛をそるように頼んだことがきっかけで、ついに二人はよりを戻したのでした。

その時ナオミは譲二とこんな約束をします。

ナオミ「これから何でも云うことを聴くか」
譲二「うん、聴く」
ナオミ「あたしが要るだけ、いくらでもお金を出すか」
譲二「出す」
ナオミ「あたしに好きな事をさせるか、一々干渉なんかしないか」
譲二「しない」

二人がよりもどしてから三四年たちました。

ナオミは二十三歳、譲二は三十六になります。

二人は横浜の立派な西洋館に住んでいました。

譲二は友達と起業しました。

一番の出資者という立場で、友達が主な仕事をしているので、譲二はわりとヒマ。

しかしナオミが譲二が一日家にいるのをいやがるので、譲二はあまり用もないのに会社に行きます。

ナオミの要求で夫婦それぞれ寝室を持っているのです。

ナオミの部屋は譲二より大きく、広い部屋の中には立派な天蓋ベッドがあります。

ナオミはそこで煙草を吸いながらゴシップ新聞やファッション雑誌を読みます。

昼近くに起きてきて、寝床で紅茶とミルクを飲む。

朝ぶろの後、女中さんにマッサージをさせ、身支度に時間をかけ、食事にでかけるのが午後の一時半ごろ。

昼ご飯を食べてからは遊び歩きます。

相変わらず男友達がいて、それもとっかえひっかえです。

譲二はやはり面白くありませんが、いつかナオミを失いかけたことが思い出されてしまい、なかなか強く言えません。

しだいに譲二はナオミの男友達との付き合いに口出ししなくなりました。

ナオミの男友達は西洋人が多く、今やナオミの英語は譲二をしのぐほど。

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