雪子の縁談3 沢崎 名古屋の資産家
そんなおり雪子に2年ぶりの縁談が舞い込みます。
縁談は蒔岡本家から来たのでした。
相手は名古屋の金持ちで沢崎といいます。
今の蒔岡家とは比べられないほどの資産家です。
年は45歳で2度目の結婚、子供もいるそうです。
相手は雪子や蒔岡家のことを調べ済みだそうです。
鶴子は雪子はもう4か月も芦屋にいるのだからいい加減本家に帰ってきてほしい、そのついでに沢崎と見合いしてほしいといいます。
幸子はなんでそんなお金持ちが自分たちと縁組したいのだろう? といぶかしく思います。
また本家が相手のことを碌に調べないで相手の欲求通りに雪子に会ってくれというのも軽率だと思います。
見合い場所は義兄の長姉が縁付いた大垣才の豪農の菅野家でした。
今回の付き添いは幸子、妙子、で悦子も一緒に行きます。
そこはこの季節は蛍の名所で、見合いのついでに蛍狩りもすることになります
幻想的な蛍狩りの翌日、見合いとなります。
相手の服装は着古した洋服で、相手がいかに今回の見合いを軽く考えているかがうかがえます。
また沢崎は雪子が気に入っていない様子があきらかで、それは雪子の左の眼の縁に現れたシミが原因のようでした。
蒲郡で一泊して一日観光したあと、蒲郡駅で雪子は上り列車に、幸子、妙子、悦子は下り列車に乗って帰ります。
雪子は東京行きの列車の中で、20歳になったころに見合いした相手の男に偶然再会します。
雪子は特急列車の切符を買うのが面倒だという理由で普通車に乗ったので、このあたりで生活している男に偶然出会ったわけでした。
相手がじろじろと雪子を見ているのですが、雪子はしらんぷり、という再会でした。
雪子は相手が顔が知的ではない、という理由で断ったのですが、相手はかつてよりもさらに田舎くさい顔になっていました。
雪子は彼は今頃家督をついで資産家になっているであろう……と思います。
しかし決してあの男と結婚すればよかったとは思わないのでした。
あんな工合に、東海道線の辺鄙な駅と駅との間を、悠長な普通列車に乗って往ったり来たりしつつ年月を送るのがあの男の生活だとすれば、そんな人に連れ添うて一生を終るのが何の仕合せなことがあろう。
自分はやっぱりあんな所へ行かないでよかった、としか思えないのであった。
おとなしい雪子ですが都会生活は捨てられないと思っているようです。
まもなく見合い相手から断りの手紙がきます。
それは短い事務的なもので、小さな便箋にペン字びっしりと書かれています。