光子の逆襲
部屋には重たい緞子のカーテンがかかっていました。
それが動いて、カーテンの向こう側から西洋の乙女の半身像とそっくりの恰好をした光子がにやにや笑いながら現れます。
光子「栄ちゃん、ヒヒヒ……さっきからお前の来るのを待って居たんだよ」
栄ちゃん「光ちゃん一人なの?」
光子「仙吉に会わせて上げるから、あたしと一緒に此方へおいでな」
栄ちゃんは光子に手を引かれてカーテンの向こうに行きます。
カーテンの向こうは真っ暗な部屋でした。
光子はマッチで壁や、栄ちゃんの着物をすって青白い光を散らします。
ついにマッチは火をおこします。
光子は部屋の中にある燭台にマッチの火を移しました。
西洋蝋燭の光は、朦朧と室内を照して、さま/″\の器物や置物の黒い影が、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の跋扈(ばっこ)するような姿を、四方の壁へ長く大きく映して居る。
そんなおそろしげで幻想的な光景の中、光子が
「ほら仙吉は此処に居るよ」
と蝋燭の下を指さします。
見ると燭台だと思ったのは仙吉でした。
仙吉が手足を縛られて両肌を脱ぎ、額へ蝋燭を載せて仰向いて坐って居るのである。
顔と云わず頭と云わず、鳥の糞のように溶け出した蝋の流れは、両眼を縫い、唇を塞いで頤の先からぼた/\と膝の上に落ち、七分通り燃え盡した蝋燭の火に今や睫毛が焦げそうになって居ても、婆羅門(ばらもん)の行者(ぎょうじゃ)の如く胡坐(あぐら)をかいて拳を後手(うしろで)に括られたまゝ、大人しく端然と控えて居る。
仙吉はこう言います。
おい、お前も己も不断あんまりお嬢様をいじめたものだから、今夜は仇(かたき)を取られるんだよ。
己はもうすっかりお嬢様に降参して了ったんだよ。
お前も早く詫(あやま)ってって了わないと、非道い目に会わされる。………」
光子はこう言います。
「栄ちゃん、もう此れから信ちゃんの云う事なんぞ聴かないで、あたしの家来にならないか。いやだと云えば彼処にある人形のように、お前の体へ蛇を何匹でも巻き付かせるよ」
(中略)
「何でもあたしの云う通りになるだろうね」
栄ちゃんがうなずくと光子は
お前は先(さっき)仙吉と一緒にあたしを縁台の代りにしたから、今度はお前が燭台の代りにおなり
と栄ちゃんを縛り上げて、仙吉と同じように燭台にしてしまいました。
仙吉と栄ちゃんは額に蝋燭を乗せています。
額の上の蝋燭が溶けて蝋をだらだら垂らし、二人の顔を覆います。
当然ものすごく熱い。
次第に目も口も、垂れてきた蝋にふさがれてしまいます。
栄ちゃんがぽろぽろ泣いていると、ピアノの音色が聞こえてきました。
光子がピアノを弾いているのです。
つらい思いをしながらも、栄ちゃんは恍惚とします。