谷崎潤一郎『少年』あらすじ

ピアノの音色と西洋館

「お庭へ行って遊ぼう」と信一に誘われて、庭に出ると美しい音色が聞こえてきます。

信一は西洋館の二階を指さした。

肉色の布のかゝった窓の中から絶えず洩れて来る不思議な響き。

………或る時は森の奥の妖魔が笑う木霊(こだま)のような、或る時はお伽噺(とぎばなし)に出て来る侏儒(こびと)共が多勢揃って踊るような、幾千の細かい想像の綾糸で、幼い頭へ微妙な夢を織り込んで行く不思議な響きは、此の古沼の水底で奏でるのかとも疑われる。

奏楽の音が止んだ頃、私はまだ消えやらぬ ecstasy の尾を心に曳きながら、今にあの窓から異人や姉娘が顔を出しはすまいかと思い憧れてじっと二階を視つめた。

「この綺麗な音色はなんだろう?」と 栄ちゃんが思っていると、「あれは姉さんが弾いているピアノの音だよ」と信一が教えてくれました。

信一の姉、光子は庭の中に建てられた西洋館の2階で、外国人の女性にピアノを習っているのです。

栄ちゃんは西洋館やピアノに心惹かれ、信一に「君はあそこへは遊びにいかないのかい?」
と聞きます。

信一によると、信一はあそこに入ることを禁じられているそうです。

信一も入ってみたくて、一人でこっそり行ったことがあるけれども、錠が下りていたといいます。

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