はじめに
はじめに
小説は、日本語の読み書きができれば、とりあえず書き始められます。
特別な道具も、特別な訓練も、必須ではありません。
思いついたことを、今日からそのまま形にできる。
ここが、文章創作のいちばん良いところだと思います。
ただ――
「ちゃんと娯楽として読まれる作品」にしようと思うと、話は別です。
書くことと、読まれることは、似ているようで別の技術なんですよね。
Webマンガだと、アマチュア作品でも最後まで楽しく読めるものが多い印象があります。
もちろん途中で離脱してしまう作品もありますが、体感としては「読める作品」の割合が高い。
一方、Web小説は、1ページ目を開いた瞬間にブラウザバックしたくなる作品が、どうしても一定数あります。
内容が悪いというより、読む前に疲れてしまう。
そんなタイプの離脱です。
逆に言えば、
最後まで読んでもらえた時点で、もうかなり大きな一歩です。
アマチュア小説としては、十分に「勝ち筋」の入り口に立てている。
私はそう思っています。
だから初心者のうちは、いきなり
「読者を感動させる」
「圧倒的に面白がらせる」
みたいな大きな目標だけを掲げるよりも、まずは――
途中で離脱されないこと。
ここを目標にしたほうが、現実的で、折れにくいんじゃないでしょうか。
私は今まで、多くのweb小説を読み始めて、最後まで楽しんだこともあります。
でもその何十倍も、途中で離脱してきました。
(読む側として、これはもう本当に、ふつうに起こります)
そしてしだいに、
「なぜ離脱したのか」
「どこで疲れたのか」
を、自分なりに分析するようになりました。
このエッセイは、そのメモのまとめです。
次の章から、私が突き当てた“離脱ポイント”を、できるだけ具体的に解説していきます。
もちろん、正解は一つではありません。
作品のジャンルや狙いによって、あえて外したほうが強くなる場合もあります。
なので、合わないと思ったところは遠慮なくスルーしてください。
あなたの執筆のどこか一箇所でも、軽くできる部分が見つかったら嬉しいです。
あなたの執筆の参考にしていただけたら幸いです。
〇〇がないと1ページ目でブラウザバック
1ページ目を開くなりブラウザバックされてしまう小説があります。
内容の良し悪し以前に、まず『見た目』で離脱されることがあるんですね。
それは余白のない小説です。
例えばこんな感じです。
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例)
「もうじきこの家は取り壊される。その前に、すみずみまで映しておきたい。私はかじかむ手にデジタルビデオをかかげ、冷え切った二階の端から端まで歩き回っていた。東南の八畳間に足を入れる。赤ん坊の頃から家を出るまでの十八年間、私の部屋だった和室だ。土壁の中にぽつんとアルミサッシの窓枠が空白を作っていた。窓ガラスをこすって霜をおとすと、ちらちらと白いものが舞っている。粉雪だ。小さな白い粒達が、灰色の空をスケートリンクにして五回転やトリプルアクセルを繰り返している。一階から妻と妹の歓声がした。階段の音を鳴らしながら降りていく。彼女達の手元には厚紙の表紙つきの写真があった。桃色に桜模様の背景に、小さな人が白い着物に紫の袴を穿いて、ちんまりと立っている。」
(宇美『小虎』)
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webで面白そうな小説を見つけて、1ページ目を開けたところこれだと、読む前に、たくさんの文字に圧倒されて「もう結構」と思ってしまいませんか?
こういう投稿のしかたは、意外と多い印象があります。私も昔、同じことをしていました。
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こういう小説の投稿のしかたをしている人は、縦書きの小説にとらわれているのだと思います。
たしかに、余白一切なしでも縦書きだとまったく問題なく読めます。
谷崎潤一郎の『春琴抄』という余白が一切ない、句読点すらろくにない小説がありますが、難しい言葉をたくさん使っているのに、とても読みやすくて、さすが文豪の作品です。
でも私が読んで感動したのは、縦書きで読んだからです。
横書きだとおそらく非常に読みにくくて、途中で挫折してしまったでしょう。
また私は以前、縦書きがメインのサイトで読んだ小説に非常に感動したのですが、同じ小説を別のサイトで横書きで読んだとき「えっ! 全然面白くない! こんなんだったっけ?」と思ったことがあります。
小説、とくに描写たっぷり装飾が多めな文学性の高い小説は、とことん横書きに向きません。
ためしに青空文庫で、好きな小説を横書きのまま読んでみてください。
おそらく縦書きで読んだときの感動はどこへやら? 読みにくすぎて、すぐに嫌になってしまうと思いますよ。
私は小説投稿サイトは縦書きメインにするべきだと思っているぐらいなのですが、webの世界は横書きがメインなので、小説投稿サイトが縦書きメインになるのはおそらく難しいでしょう。
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ではどうしたらよいでしょう。
- 方法1
句点(「。」)ごとに改行。1行あける。
例)
「もうじきこの家は取り壊される。
その前に、すみずみまで映しておきたい。
私はかじかむ手にデジタルビデオをかかげ、冷え切った二階の端から端まで歩き回っていた。
東南の八畳間に足を入れる。
赤ん坊の頃から家を出るまでの十八年間、私の部屋だった和室だ。」
★宇美『小虎』★
私の作品です。
下記のリンクから読めます。
よかったら読んでね(^▽^)
小虎|僕を愛して身代わりになってくれた彼が、霊能者になるなんて!!
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さて少し読みやすくなったかな?
でも3行目は文が長いためか読みにくくありませんか?
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- 方法2 句読点ごとに改行。句点(「。」)ごとに1行あける。
実は私は、投稿するときは句点(「。」)だけではなく、読点(「、」)でも改行しています。
(ちなみに「、」まで9文字以下の場合は改行しません。「、」まで9文字を超えた場合のみ改行しています。これはあるインターネットビジネスの成功者のメルマガの書き方を参考にしています)
さらに「。」では改行して一行あけています。
こういうことですね。
句点「。」・・・・・・・・・・改行して一行開ける。
読点「、」・・・・・・・・・・改行するが一行開けない。
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読点でも改行バージョンの例)
「もうじきこの家は取り壊される。
その前に、すみずみまで映しておきたい。
私はかじかむ手にデジタルビデオをかかげ、
冷え切った二階の端から端まで歩き回っていた。
東南の八畳間に足を入れる。
赤ん坊の頃から家を出るまでの十八年間、
私の部屋だった和室だ。」
(宇美『小虎』)
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文字が多すぎて読むのがなんかダルイ、というのが解消されたと思いません?
でもちょっとやりすぎかもしれませんね。
あるサイトではこの句読点ごと改行を強い言葉で否定している人もいました。
けれども私の文章はかなり純文学よりで固いので、…これぐらいしないとラノベがメインの投稿サイトでは読まれにくい場面がある、と感じています。
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かつては私も改行一切なし、余白一切なしで投稿していました。
でもあるときランキング1位の作品と自分の作品を見比べて「同じ小説なのに、全く別物に思える。この小説が1位のこのサイトで、私の小説が読まれるわけがない」と思いたって、この句読点ごと改行スタイルに変えたのでした。
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ちなみにこのエッセイでは読点ごとの改行はしないで、句点ごとの改行にしています。
こういう実用的な文書は横書きと相性がいいので、そこまで余白を開ける必要がないからです。
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★☆注意事項☆★
「句読点ごとに改行する」
というのは横書きのWEBサイトでの読みやすさに特化した方法です。
私は私の文体では(装飾多めで純文学調)これぐらいが読みやすいと思っていますが、これでは改行しすぎという意見も多いです。
特に読点(、)で改行するのは、一般的に正しい日本語の書き方とされていません。
コンテストに応募するときなど、それだけで選考外になってしまう可能性もありますので、やめたほうがよいでしょう。
△△が覚えられないと読まれにくい
第2章、第3章ぐらいで離脱が起きやすい小説にありがちなのは、序盤から登場人物がどんどん増えていくパターンです。
読者が覚えきれず、誰が誰だかわからなくなってしまう。
いったん混乱すると、筋を追うのがしんどくなって、そこで読むのを止める人が出てきます。
だから登場人物はできるだけ絞って、登場もゆっくりにしたほうが無難です。
特にこんな理由で登場人物を増やすのは、私はおすすめしません。
・この小説は男性(または)女性キャラばかりだから、女性(男性)キャラもいれよう。
・不思議ちゃんとか男の娘とか、はやりのキャラをいれよう。
・若い美男美女ばかりだけの組織だと不自然だから、中年の登場人物もいれよう。
・この人は35歳の男性だから、結婚しているだろう。奥さんを出そう。
奥さんが空気だと、女性差別と言われてしまうから、奥さんも個性的に。
・物語が停滞してきたからここで新登場人物をいれて打開しよう。
最後の「物語が停滞してきたからここで新登場人物をいれて打開しよう」はいたしかたないところもありますが、なるべくやめたほうがいいですね。
代替えの方法として以前登場して一度退場した人を出す、という方法もあります。
新しい村で出会った人は、転生前の主人公の上司の生まれ変わりだったとか……
アイディアをしぼってみてください。
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また登場人物を覚えやすくするためには、呼称を統一することも大事。
例えば学園もので、山田太郎という登場人物が出てきたら、リアリティを重視して、クラスメートに「山田君」とか、「太郎」とか、「やまっち」とか、いろいろな呼び方で呼ばせたくなるかもしれませんが、やめたほうがいい。
読者はいくつもある呼び名を覚えられません。
ここは多少リアリティを無視して、呼び名を「タロウ」で統一させるのがいいかと思います。
また登場人物の名前を読者に覚えてもらうために、タロウ君が登場してまもなくは「タロウ」「タロウ」と名前を連呼します。
例えば、クラスメートがタロウに挨拶するとき、ただ「おはよう!」ではなく、「タロウ、おはよう!」と名前を添える。
他にも
「タロウは振り向いた。それから鞄を取って、中を開けた。そこには彼のものではない教科書が入っていた」と書く所を、
「タロウは振り向いた。それからタロウは鞄を取って、中を開けた。そこにはタロウのものではない教科書が入っていた」と名前を繰り返して、読者にタロウ君を印象づけます。
読者は、忙しい日常の合間に小説を読みに来てくれます。
あくまでも娯楽、リラックスタイムです。
ですから、肩の力を抜いて読んでいても、ストーリーが自然に追えるように書くのが読まれるコツです。
読者に余計な負担をかけずに楽しんでもらう、という視点が基本になります。
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登場人物を減らすことのメリットとして、一人一人の印象を濃くできるというのがあります。
ちょい役だった人も繰り返し登場すると、印象が濃くなってきます。
濃い印象の登場人物が多く、ぼんやりとした印象の登場人物が少ないことも面白い小説の条件の一つです。
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また登場人物の数を減らすことは読者へのサービスになります。
これは私の経験なのですが、小説やマンガに一度登場したわき役を好きになって、
彼(彼女)の再登場を楽しみにして読み続けたのに、結局最後まで出てこなくてがっかり、ということがよくあります。
こんな新キャラいらないよ!! それより〇〇を出してくれ!! と思ったことが何度あることか。
一度登場させたキャラはファンがついている可能性があります。
ファンを喜ばせるためにも、何度も活躍させてあげましょう。
誰が何をしているかはっきりさせよう
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここでちょっと下のシーンを読んでみてください。
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ヒロシが校門から出ようとするまさにそのとき、ミサトとスグルがまるで恋人どうしのように肩をならべて向こうからやってきた。
「えっ! おまえたちなんで一緒なんだよ!」
「さっき、道でばったりあったからだよ」
「でもさ、人からみたら付き合っているようにみえるぜ」
からかわれた少年は照れ臭そうにしていたが、少女はなぜか青ざめていた。
「なんか変だよね、この時間に校門の前に三人しかいないなんて」
「そういえば……」
そう、不思議なことに、校門から校庭を見ても、反対側の通りを見ても、人っ子ひとり歩いていないのだ。
その時だった。空が急にどす黒くなり、いなずまが走った。
2秒おいて、雷鳴がとどろきわたる。
(何が起きたのだろう? もしかしてこれが「5ちゃんねるまとめ」で読んだ異次元の入口? それにしてもなんでこんな時に……今日はせっかくミッちゃんとばったり会えたというのに……あっあの子あいつにしがみついている。こいつらやっぱり付きあっているのかな? くそー!)
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以上長々とすみません。
ところでみなさん、終わりのほうで(今日はせっかくミッちゃんとばったり会えたというのに……)と思っているのは誰だかわかるでしょうか?
またいったい誰が誰にしがみついているのでしょうか?
ちょっとすぐには答えられませんよね。
この小説のワンシーンは、途中から誰がそう思っているのか、誰がその動作をしているのかが、わかりにくくなってしまっています。
今の場面だけなら三人の少年少女が校門で雷を怖がっている、というだけですので、まだそれほど混乱せずに済んでいますが、この調子のまま話が進んでいくとどうでしょう?
読者は筋を追えなくなります。
小説を読んでいてあらすじが追えなくなったらもう終わり。
読者はその時点で嫌になって読むのをやめてしまいます。
こういうWEB小説は結構多いです。
他にもセリフが延々と続いて、どれが誰のセリフだかわからなくなる、なんていうのもよく見かけます。
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ではどのように解決したらよいでしょう?
それは多少不自然になっても、主語をきちんと入れることです。
一度書いたものを読み返してみて、「読者がこれは誰の動作や会話、心理描写だろうと疑問に感じないかな?」とちょっとでも思ったら、その前に主語を入れるようにしましょう。
本当は主語を入れすぎないほうが日本語としては綺麗ですし自然です。
でも誰が何をしているかわからないような小説になってしまったら元も子もない。
文章のこなれ度よりも、わかりやすさを優先させるべきです。
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先ほどのシーンを書き直してみました。
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ヒロシが校門から出ようとするまさにそのとき、ミサトとスグルがまるで恋人どうしのように肩をならべて向こうからやってきた。
「えっ! おまえたちなんで一緒なんだよ!」とヒロシが驚くと、スグルがいいわけをする。
「さっき、道でばったりあったからだよ」
「でもさ、人からみたら付き合っているようにみえるぜ」
ヒロシがそうからかうと、スグルは照れ臭そうにしていたが、ミサトはなぜか青ざめていた。
ミサトは小刻みに震えながらこう言った。
「なんか変だよね。この時間に校門の前に三人しかいないなんて」
「そういえば……」とヒロシとスグルもあたりを見回す。
そう、不思議なことに、校門から校庭を見ても、反対側の通りを見ても、人っ子ひとり歩いていないのだ。
その時だった。空が急にどす黒くなり、いなずまが走った。
2秒おいて雷鳴がとどろきわたる。
(何が起きたのだろう? もしかしてこれが「5ちゃんねるまとめ」で読んだ異次元の入口? それにしてもなんでこんな時に……今日はせっかくミサトちゃんとばったり会えたというのに……あっミサトちゃんスグルにしがみついている。ミサトちゃんとスグルってやっぱり付きあっているのかな? くそー!)とヒロシは運命をのろった。
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だいぶわかりやすくなりましたね。
主語をマメに書いたほかにも少年、少女、この子、こいつら、といった言葉を登場人物の名前に書き換えています。
また書き直し前はヒロシはミサトのことを「ミッちゃん」と愛称で呼んでいましたが、書き換え後は「ミサトちゃん」と本名にちゃんづけに変えました。
わかりやすい小説を書くためには、一人の登場人物を複数の呼び名でよばないほうが吉です。
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さらにわかりやすくする方法として、次のような方法があります。
1)セリフを聞いただけでもだれが話しているかわかるように書く。
女言葉、男言葉、お爺さんことば、などは積極的に使う。
ざあますことば、乱暴な言葉、お嬢様言葉……などもキャラにあわせてどんどん使いましょう。
たとえば先ほどのシーンだったらミサトのセリフを「なんか変じゃない? この時間に校門の前にわたしたち三人しかいないなんて」というように、女の子らしい言葉づかいに変えると、さらに誰のセリフだかわかりやすくなります。
また男子学生が二人いるわけですから、一人の一人称を「俺」にして、もう一人は「僕」にしたりするのもいいですね。
2)視点を固定する。
小説を書くときはなるべく視点を固定するようにしましょう。
短い字数の中で視点を変えてはいけないのは、よく言われる基本ですが、できれば一つの作品を通して視点を変えないことをおススメします。
読者はリラックスして読んでいることが多いです。
視点が変わった時に、それがわかるようにちゃんと主語を書いてあげても、読者は読んでいなかったり、忘れてしまうことが多いのです。
一つの作品を通して視点を固定させれば、その小説のなかで、主人公以外の人が思ったり、感じたりすることは決してないわけです。
だから「思った」とか「感じた」と書いてあれば、読者は主人公がそう思ったり感じたのだと特に意識していなくても、瞬時にわかります。
情景描写を書いても、主人公が見ている景色なのだとすぐにわかります。
またモノローグや心理描写を書けば、読者は「これは主人公の胸のうちを書いているのだな」とすぐにわかるわけですね。
このように序章から完結まで視点をブレさせない小説が、読んでいて一番わかりやすいです。
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でもどうしても視点移動をしたい場合もあるでしょう。
そのときはまずは書き方を工夫して、視点移動を極限まで減らすべきです。
さらに動作や心理描写の前にしつこく主語を書くようにしましょう。
例)
× 空を見上げるとどすぐろい雲の上に雷光が走った。
〇 ヒロシが空を見上げるとどすぐろい雲の上に雷光が走った。
× あいつらつきあっているのかな?
〇 ヒロシは思った。「あいつらつきあっているのかな?」
× 胸がむかむかする……
〇 ヒロシは胸のむかつきを感じた。
特に視点が変わってから、1,2章ぐらいは、念入りに主語を書くように気をつけましょう。
ただあんまり「ヒロシは」「ヒロシは」と繰り返すと美しい日本語ではありません。
やはり一つの作品を通して、視点を固定したほうがすっきりまとまった小説になりやすいです。
一番のおすすめは最初から最後まで一人称で主人公視点の小説を書くことです。
一番書きやすくて読みやすい小説にしあがります。
それ以外の場合は、わかりやすくするための工夫がいろいろと必要になるわけです。
宇美の文学 
