小説『小虎』第16章 茶畑の中の学校(6)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

また人の気配がした。

二人の、
私より少し年上らしき生徒だった。

一人は短い髪にシュットした輪郭、
細いが筋ばった首から続く体は
チーターのようにしなやかだった。

顔立ちも猫科のチーターやピューマを思わせる。

長い足でそよ風を吹かせそうなさわやかさで
こちらに近づいてくる。

初めて会ったときの小虎を髣髴とさせた。

小麦色に日に焼けていた。

もう一人を見た時、
私の胸は高鳴った。

学校案内に写真があった西洋人の生徒だった。

今考えると馬鹿みたいだけど、
田舎育ちで欧米人は映画でしか見たことがなかった私は
彼が映画スターかスポーツ選手のように見えた。

オレンジ色の髪や緑色の目が私にはとてつもなくまぶしかった。

日本人の少年も背が高かったが
西洋人の少年が日本人の生徒よりも頭一つ大きかった。

日本人の生徒はつり上がり気味の切れ長の目を
緑の瞳の少年に向けながら外国語を話している。

両手をしきりに動かして、
身振りが大きく彼も外国人めいて見えた。

私は自分と同じ年頃の少年が外国語を流暢に話すのを見て
すっかり感心した。

お爺さん神父さんと同じ形の
黒いワンピースを着た男性があらわれた。

上品な細面で五十歳ぐらいである。

淡い茶色の丸いサングラスをかけ、
白い杖をついている。

流れるような細身の体だった。

「ジョアンセンセイ、
ロバート、
ケンイチ!」

お爺さん神父さんの声だった。

「ゴショウカイシマショウ、
コチラハ、
テンコウセイノ、
スグルデス」

私は初めましてとジョアン先生にぺこりとお辞儀をした。

ああ、
君が教頭先生がいつも話していらっしゃる一郎さんの息子さんですか、
とジョアン先生は私をサングラスの下から見下ろした。

これがこの後六年間聖歌隊の顧問としてお世話になった
ジョアン先生との出会いだった。

先生は生まれつき目が悪かったが、
その分、
耳が異音探知機なみに発達したそうだ。

ゲーム機の音を聞きつけると
すぐにどの方向からかわかってしまう。

そして寮でも、
校舎でも杖をカツカツさせながら突進していく。

物も言わずに寮の部屋に乗り込みゲーム機を没収してしまう。

それで、
一部の生徒達に随分とうらまれていた。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫