小説『小虎』第3章 竹馬の友(1)

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小学生の時、
私は白砂神社の十二年祭の稚児に選ばれた。

そして祭りの十日前に、
はずされた。

首にはなったものの、
せめてもの記念にと記念撮影をしたのだ。

その時の記憶は私の中からすっぽりと抜け落ちている。

厳寒の夜、
漆黒の中、
泣きじゃくりながら暗い石段を降りていったことだけ覚えている。

冬の真夜中に戸を激しく叩く音がするので二郎叔父が、
玄関を開けると、
四日前から神社に預けられていた私がいた。

白い着物の上にコートも着ずマフラーもしていなかった。

唇を紫色にさせて、
体を北風に吹かれた窓ガラスのように震わせていたという。

白い馬にまたがった、
生きたからくり人形のようなお稚児さんは、
この辺り一帯の男の子を持つ親達の憧れだった。

その日だけ頑是無い少年は祭りの中心となる。

錦をまとい、
神社の宝だという、
輝く金の冠を被る。

狩衣に烏帽子を被った男達を中心とする大勢の行列をしたがえて、
神社の石段を下りていく。

浜に出ると朱塗りで飾りの沢山ついた唐風の船に乗り込む。

この祭りは十二年に一度の神社の一番大きな祭りだった。

その祭りのクライマックスは、
お稚児さんが乗った船が、
沖に出るのを大勢で見送ることだった。

ガムランを彷彿とさせる賑やかな、
お神楽を奏で、
爆竹を鳴らしながら、
だんだん小さくなっていく船を見送るのである。

私が選ばれたのはその頃、
父が医学博士号を取得したお礼に、
祖父が狛犬を白砂神社に寄進したためだという。

稚児に選ばれると祭りの十五日前から神社に預けられる。

拝殿や本殿のはるか奥にある裏山にこもり、
禊や修行をするらしい。

具体的には何をするのかは関係者以外には秘せられている。

実際に経験したはずの私もどんなことをしたのか、
まったく覚えていない。

ただ幼い私にとって、
よほど嫌なものだったのだろう。

私は怖がりで、
夜便所に行くにも誰かを起こして、
決して一人では行かなかった。

そんな甘ったれが、
たった一人、
深閑とした夜の神社の奥深く続く森を抜けて家に帰ったのだ。

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