小説『小虎』第3章 竹馬の友(2)

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この事はわたしにとって大分トラウマだったようだ。

受験勉強が厳しかった高校生の時分、
幾度も悪夢に悩まされた。

暗黒に忽然と浮かび上がった石段を一人きり、
頬を濡らしながら降りていく。

周りは真っ黒なのに石段だけは、
くっきりと白い。

それを照らすのは暗闇にたゆたう無数の人魂だ。

足元を見やれば子供のように華奢で、
白い足袋に草鞋を履いている。

逃げてきたのは底知れぬ恐ろしい世界からだった。

仲間をおいて自分だけ逃げてきた、
という罪悪感に駆られている。

祭りの直前になって稚児が逃げ帰ってしまい
宮司さん達は随分困ったそうだ。

ただあてはあったという。

白砂神社に二日と空けず、
お参りにくる母と少年がいた。

粗末な身なりだが、
人目を引く端正な容貌と、
上品さを持つ、
若い未亡人と男の子だった。

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