小説『小虎』第3章 竹馬の友(5)

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私は小学校五年生までは登下校には毎日子守のおばさんがつきそった。

学校に行く途中の道に、
人家まばらなススキ野原が広がっていたからだ。

六年生になる春に、
東京から着た父の伯父がそれを聞いて、
甘やかしすぎだと怒ったのでそれから卒業までは自転車で通うようになった。

私は鼻をボタンのように押されて、
掃除機を突きつけられた猫のように逃げ出した。

ストーブで温められた部屋を出て、

冷蔵庫のような縁側に出た。

玄関で靴を取ってくると縁側に戻る。

猿によい子に待っててね、
とガラス戸にもたせかけるように座らせると、
マフラーでくるんでやった。

庭に降り、
松の幹に立てかけている竹馬を拾った。

それはいわゆる二本の棒でできたバランスをとりながら歩く竹馬ではない。

一本の竹の先端に二郎叔父による木彫りの馬の頭をくくりつけたものだった。

竹馬に憧れていたが、
うまくできない私に、
二郎叔父が作ってくれたものである。

彼によればこっちの方が伝統的な竹馬だという。

竹馬の友と言う言葉は中国の東晋時代の故事にもとづく言葉だが、
ここでいう竹馬はむしろこの形の玩具を指すらしい。

私はその「竹馬」にまたがり鯉の泳ぐ池の周りをしばらく跳ねた後、
飛び石をつたい、
門に出た。

門の軒下には年末からずっと、
刺繍入りの白いリボンや、
連になったトンボ玉や銀の鈴がぶら下がった、
白羽の矢が括り付けてあった。

それが、
いつの間にか撤去されていた。

矢を結わえ付けていたワイヤーが、
取るのを忘れたのか、
まだ残っていてカチャカチャと風に吹かれて音を立てていた。

私はさっきの祖母と叔母の話を思い出した。

ふうん小虎兄ちゃんがお稚児さんになったのかあ、
とつぶやいた。

私は小虎を知っていた。

良子さんが小虎の母だということも、
ぼんやりとわかっていた。

私が小虎に会ったのは、
白砂神社の十二年祭の丁度三ヶ月前の
私の誕生日の朝だった。

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