小説『小虎』第28章 エピローグ(2)

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尋ねてきたのは幼馴染の小虎だった。

中学生の頃から失くし物を見つけたり、
行方不明の猫を探し当てたりしてきたという彼は
今は霊感による祈祷や占いで生計をたてている。

昔親戚が霊能者にひどい目に合わされた妻は、
小虎があまり好きではない。

それなのに
この前は夜中まで私と彼の再会の宴につきあってくれた。

今日はわざわざ彼女が嫌がるようなことはするまい。

私は今日は遅くなるから、
夕飯はいらないよ、
と小虎とともに外に出た。

「この前、
明け方、
井戸に水を飲みに行った時に、
神様がおっしゃったんだ。

今にこの国にはうす靄が降りて、
それをおおいつくす。

空にはおたまじゃくしが飛んで、
兎が革鞄をくわえて神社の石段を降りて行く。

お賽銭を投げたら、
神様が大笑いをされたんだ。

最近神様嘘つかないよ」

彼の一遍の幻想詩のような話を聞きながら道を進むと、
視界の端に白く揺れるものが写った。

重厚な長屋門の柱に
白羽の矢が縦にくくりつけられている。

黒々とした古い木の肌を背景に
白い矢や飾りの金銀が鮮やかだった。

矢が固定された柱は
大きな丸太で
ほかの門の部分からは
大きくつきでている。

その為、
矢から垂れた装飾は
まともに風を受けていた。

矢の脇から流れる
とんぼ玉を通した銀線、
金銀の紐、
白い絹が
雪混じりの風にあおられて
吹流しのように空を舞っている。

しかしその白く清廉な姿も
次第に激しくなる雪の白にかき消されそうである。

私の右斜め前では小虎の長い脚がせわしなく動いている。

二三軒の門の前を通る。

かつてこの季節には寒つばきやクリスマスローズが華やかだったお宅の庭も
今では植木や鉢植えはすっかりかたずけられていた。

残されたわずかな植物も枯れ果てていた。

それがかえって、
すっきりと清らかな感じがする。

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