小説『小虎』第1章 粉雪舞う日(2)

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ドアのベルが、
じいじいとダイヤル式電話のような古臭い音をたてた。

妻は金魚の刺繍がされたエプロンをはためかせながら、
廊下に出て行った。

無地のなすび色の縁の、
茶けた畳には、
写真が散らばっている。

黒の前掛け、
股引、
地下足袋に、
揃いのはっぴを着た私と妹。

七五三の飴をぶらさげた桃割れに赤いおちょぼ口の妹。

重たげな前髪を真ん中で二つに分けた羽織袴の花婿。

白無垢に文金高島田のげじげじ眉毛の花嫁。

これは誰の結婚式だろう?
集合写真の女性達は皆いかり肩で、
爆発したようなソバージュヘアだ。

前髪をトサカのように立ち上げた、
スカーフ柄のワンピースの若い女性が小さな男の子と手をつないでいる。

妹がこれって洋子叔母さんと、お兄ちゃん?
と聞くので覗き込んでみる。

少年は何度も着た覚えのある臙脂のベストを着ている。

妻が戻ってきた。

スグルさん例のおがみやさんのお友達よと、
嫌そうな顔をする。

私と妻は友達にいわせれば、
まるで血のつながった兄弟のようによく似た夫婦だそうだ。

けれども、
この事においてだけはきっと生涯わかりあえないだろうと思った。

今日はわざわざ彼女が嫌がるようなことはするまい。

私は今日は遅くなるから、
夕飯はいらないよ、
とダウンジャケットを肩にひっかけると、
部屋を出た。

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