小説『小虎』第4章 小虎(2)

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私は犬を石段においてボタンを押した。

犬は口を開き赤い舌を覗かせながら
ワンワンワンと両足を動かした。

かさかさかさという葉のかすれる音がした。

右脇には竹藪が
石段に覆いかぶさるように広がっている。

私が犬に見とれていると、
町内の酒屋の娘、
美登利がやってきた。

彼女は私と同い年だった。

美登利はいつものように兄のお下がりの男の子用の地味なジャンパーに
だぼだぼのズボンを履いていた。

左右ばらばらの靴下に
特撮ヒーローがプリントされた運動靴姿だった。

私は反射的に犬を拾い上げ抱きかかえ、
体を縮こまらせた。

あんた水兵!?
こんな帽子被って!

美登利が、
金太郎のようなおかっぱ髪の下の色黒の顔をこちらに向ける。

太い指で
私の長いサテンのリボンの垂れた真っ白な帽子をつまむ。

美登利は扇子のように広がった頭に
私の帽子を乗っけてポーズを取った。

似あわねえ、
という声がした。

美登利の弟の正太だった。

美登利が正太を殴ろうとすると、
正太は慣れた風にそれをよけた後、
チシャ猫のように歯をむき出しにした。

水兵帽が落ちて、
裏側が見えた。

正太が拾って、
タグを見た。

プティガールって書いてあるぞ!
これ女用だ、
お前、
女装しているんだ、
と騒ぎ出した。

まもなくコートも剥ぎ取られた。

正太が、
アリスルームだって、
女の服だ!
女装!
女装!
とわめきだす。

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