小説『小虎』第4章 小虎(6)

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私と小虎が病院に行くと、
ああ坊ちゃん、
といつも可愛がってくれる若い先生が出迎え、
後ろからは父が現れた。

父は私に怪我の理由を問うた。

私は、
美登利ちゃんと正太君……
と下を向いて答えた。

父は、
女の子と年下の子にやられて、
情けない、
と顔をしかめる。

小虎が、
スグル君はいじめられたんじゃなくて、
喧嘩したんです、
とかばってくれた。

父はやり返したのか!
ならいい!
と笑顔になった。

私は小虎をちらりと見た。

小虎の母、
良子さんは美しい人だった。

私は彼女を見た時、
うちのママより綺麗な女の人に初めて会ったと思った。

目から鼻の下までは小虎とほぼ同じだったが、
小虎の口が大きいの比べて、
彼女の口は薔薇の花びらのように小さく、
ふっくらと膨らんでいる。

母が好きで集めていた、
中原淳一の画集に出てくる人に似ていた。

看護婦さんのような淡い水色のワンピース姿が清楚だった。

父、
良子さん、
小虎、
若い先生はお互いを良く知っているようだった。

小虎は若い先生に
艶々とした紙のフルカラーの本を返した。

何の本かと聞くと、
人体のしくみについて説明した本なんだ、
僕は医者になりたいから今から勉強しているんだ、
という。

小虎君、
医大の学園祭にはぜひ遊びにおいでよ、
と若い先生が誘うと、
小虎が嬉しそうに礼を言った。

小虎が、
スグル君もお医者さんになるの?
と聞いたので、
私は、
ウン!
ママもパパもおじいちゃんも僕はお医者さんになるって言ってたから、
たぶんそうだよ。

でも人間だけじゃなくて、
動物のお医者さんにもなりたいんだ、
獣医さんていうんだよ、
と答えた。

父がスグルが言う動物って玩具の動物だろう?
とからかった。

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