小説『小虎』第10章 小虎と猫(3)

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小虎兄ちゃんいいなあ!
と言った時だった。

なあなあという鳴き声が後ろから聞こえ、
振り向いた。

私達は軽く二十匹は越える猫達に囲まれていた。

白い猫から黒い猫。

雉にトラに、
ペルシャが混じっていそうな、
毛が長いの。

スラリとした体格の、
太ったの、
痩せたのと様々だ。

猫は何処からともなく次々と沸いてくる。

台風のように渦巻いていた。

その台風の目となるのが小虎だった。

私は大好きだったはずの猫が恐ろしくなった。

小虎兄ちゃん、
と小虎を仰ぎ見て助けを求めた。

小虎は穏やかな光を放つ瞳を私に向けた。

口元は三日月のように優しく弧を描いていた。

小虎が中腰になる。

白と三毛が示し合わせたように一斉に小虎の肩から飛び降りる。

小虎の足首に赤ちゃん猫が抱きついていた。

アメリカンショートヘアと和猫の混血のような、
灰色がかったトラ柄だった。

小虎は赤ちゃん猫を抱き上げる。

小さな顔に鈴のようにくりくりの目をしていた。

黒目が白目いっぱいに広がっている。

小虎は赤ちゃん猫の雪のような白い前足を私の肩に置いた。

小虎が猫の背中から手をはずす。

猫は私の肩に乗っていた。

私は心臓がわくわくした。

まるでアニメの主人公になった気分だった。

ちび猫は私の首筋に暖かな体を擦り付けた。

小虎が私を向いて両手を広げた。

私も両手を広げる。

ちび猫が私の右の手先に向かって歩き出した。

暖かい感触と重みが手先へと移っていく。

手が重だるくなった。

小虎が私の手に両腕を添えて支える。

小虎の表情は初めて会った日のように大人びていた。

もう何もかも悟りきっている、
まるで少年の姿をした神様のような趣があった。

猫は手先まで行くとクルリとこちらを向いた。

肩に向かって戻りだす。

小虎の英知に満ちた目と、
あどけない赤ちゃん猫の黒目勝ちな瞳が一斉に私を襲った。

私が圧倒されているうちに、
白と灰色の毛皮は私の首筋をさわる。

そのまま頭に乗っかった。

重いなと思っていると反対の肩に降りた。

私の左肩に座るとそのまま止まる。

左耳にざらっとした暖かい感触が走った。

小虎がこちらを見て微笑んでいる。

私は小虎に笑い返した。

先ほどは百匹近くいるように見えた猫達は尋常な数になっていた。

だいたい十何匹ぐらいだろうか。

家の近くでもよく猫たちは、
こんな集会を開いている。

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