小説『小虎』第22章 真冬の夜(4)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

私は島へ渡る鉄橋に向かって歩き出した。

横殴りの雪風が喉を凍らせる。

私は手袋をコートのポケットに突っ込むと襟巻きを一度解き、
目の下から口元を覆うように巻き直した。

歩いても歩いてもバスでは十五分の鉄橋にはたどり着かなかった。

だんだん暗くなる空が私を不安にさせた。

すっかり暗くなった頃にやっと鉄橋の入り口が見えてきた。

私は島に体を向けた。

薄暗い景色の中で白い鉄橋は電灯に照らされて浮かび上がっているように見えた。

渡るのにはどれくらいかかるだろう。

私はふと重要なことに気がついた。

私は小虎を訪ねるつもりだったのだ。

今まで何度も失せ物を見つけた経験があるという小虎に頼めば、
受験票が見つかるかもしれないと思ったのだった。

でも島についてからの小虎の家への道なんか到底歩いていけない。

一度タクシーで行ったきりなのだ。

今からまたタクシー会社に電話しようか?
どこかに電話ボックスが見つかるだろう。

小虎の家に電話しようか?

ポケットの手帳には鬼塚霊術の住所と電話番号なら書いてある。

でも電話に出るのはきっとあの男だろう。

暗澹たる気持ちで鉄橋にたどり着いたとき、
鉄橋にぼうっとした人影が見えた。

その人は頭に防災頭巾のようなものを被っていた。

かい巻きのような大きなちゃんちゃんこを羽織っていた。

長靴を履いて、
まるで雪ん子のようだった。

頭巾の中には市間人形のような丸い顔がぽつねんと浮かんでいた。

こっちを見ている。

小さな丸い顔、
大きな目、
すらっとした鼻に整った口。

小虎だった。

何年ぶりだろうか?
数年前にホームで背中だけ見たが、
まともに顔を見たのはケンイチと一緒に神社で偶然会ったのが最後だった。

こっちに視線を投げかけている。

あれから年をとっていない。

それどころか若返ったように見えた。

もう二十歳を過ぎたはずの小虎だったが、
年下の少年のようなみずみずしさだった。

小虎は私に人形のように顔を向けていた。

私は小虎の顔を覗き込んだ。

小虎の瞳は湖のように広がり私を包み込んだ。

温泉のような暖かな水に包まれた気がした。

口元は一見、
無表情に見えるほどの淡い笑みを浮かべていた。

顔に柔らかいものがあたった。

小虎は綿入れの袖で私の涙を拭いた。

小虎が袖から手を差し出した。

手袋の無い白い手で、
私と手を繋ぐと、
袖の中にしまった。

小虎の手は電気毛布のように暖かかった。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫