小説『小虎』第22章 真冬の夜(7)

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校門を出る。

小虎は、
突風のような速さで駆けていく。

私は彼に手を引かれてついていく。

不思議と息が苦しくない。

見慣れた街であり、
確かに足にアスファルトの感触があるが、
空を飛んでいるような心地だった。

小虎が歩みを止めた所は、
私の家の門の前だった。

小虎がオジャマシマス、
とつぶやきながら、
雪の積もった門を押して中に入った。

ポストの蓋をカパリと開けた。

中にぼんやりとした白いものが見えた。

私はひったくるようにそれを取り出した。

白いはがき大の紙には、
受験票、
田中スグル、
○○大学入学試験、
試験日2月×日と書かれており、
受験校の割り印の押された、
緊張した面持ちの私の顔写真が張られていた。

私は冷え切った受験票を握り締めた。

小虎は大きな目で私を見つめた。

安心したような笑顔だった。

もしかして小虎も自分の透視が正確かどうか気になっていて、
いま目的のものが目の前にあるのを見てほっとしたのかもしれない。

小虎はにこにこと私の肩を抱いた。

暖かい体温が伝わってきた所でやっと心が落ち着いた。

小虎にありがとうありがとうと何度も感謝した。

東京でお土産買ってくるからね、
と言って、
家で夕食を食べてから帰るように誘った。

家に戻ると父が帰ってきていて二郎叔父がまだいた。

父と二郎叔父は酷く怒っていて、
母はおろおろしていた。

叔母さん、
直人さんもいた。

私が帰ってこないので、
心配して今から警察に電話する所だったという。

私は小虎に合格祈願の呪いをしてもらいたくて、
会いに行ったんだ、
と苦しい言い訳をした。

皆が納得できないといった顔をする。

とにかく私が見つかってよかった
ということで直人さんと叔母さんは帰っていった。

母が私と小虎にとんかつをだした。

小虎は礼も言わずに獣のようにそれにむしゃぶりついた。

それを哀れがった母は、
デザートのアップルパイも出すとみな自分の分はすぐに平らげてしまい、
私のをマグロの切り身を前にした猫のようにじっと見ている。

私は笑ってもちろんこれぐらい小虎兄ちゃんにあげるよ、
と皿を差し出した。

母は私に小虎に服をあげるように言う。

私はたんすを開けてなるべく新しいものを選び紙袋に入れて、
小虎にやった。

母が「御礼」と熨斗袋に書いて、
三万円を包み小虎に渡した。

タクシーを呼び、
小虎を鬼塚の家まで送り届けるように頼んだ。

タクシーが行ってしまってから父が鬼塚に電話をした。

二郎叔父はその日は家に泊まった。

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