小説『小虎』第6章 祭りの後(4)

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母がそのうちね!
そのうちよ!
と目を潤ませながらうわ言のように繰り返す。

二郎叔父が、
そんなことより、
お土産買ってきたよ!
とお菓子の包みを取り出す。

オバちゃんが、
猫と兎の指人形を両手に嵌めてスグル君、
私達と遊びましょう!
と私の前で手をゆらゆらさせる。

僕、
赤ちゃんじゃないよ!
とオバちゃんを睨むと、
足でくいを打ち込むように、
フローリングの床を踏みならした。

妹が泣き出した。

オバちゃんが妹を抱き上げた。

二郎叔父が冷たい表情で、
何も言わず部屋を出た。

車の音がするので外を見ると、
二郎叔父の車が門から出て行った。

妹の泣き叫ぶ声が私の胸をえぐった。

惨めな思いで母とオバちゃんに謝ろうとした。

母は茫然自失したように、
じゅうたんに膝をつき、
空気のぬけた風船のように座り込んだ。

オバちゃんは妹に、
よいこよいこ、
とあやしながら膝を伸ばしたり曲げたりしている。

私に背中を向けて、
あんなに大声だして怖いお兄ちゃんね、
とぼそっとつぶやいた。

私は飛び降り自殺でもする気分で、
庭に出た。

竹馬にまたがり、
敷石の上を、
ぴょんぴょんと渡った。

ずっと前に高い所から地面にうちつけられて、
今でも惰性ではね続ける毬になった気分だった。

竹馬が暴れだして、
自分が小虎のように水に落ちる妄想が広がった。

門の前にタクシーが止まって余所行きの着物の祖母が降りた。

祖母の後姿が玄関に消えた後、
少しして、
母の呼ぶ声がした。

居間に戻ると、
甘いシナモンの香りがただよい、
テーブルにはケーキの箱が置かれている。

花柄の皿とフォークも重ねて置かれていた。

妹はオバちゃんの腕の中で笑っていた。

オバちゃんが妹を子供用の椅子に腰掛けさせると、母と二人で、ケーキを取り出し、紅茶をいれた。皆で、おやつの時間となった。

二時間程すると、
自動車の音がまたする。

二郎叔父がプラスティックの籠を下げて帰ってきた。

籠をあけるとチワワの赤ちゃんが、
頼りなげな様子で這い出てくる。

イチゴの乗ったケーキのおかげで大分回復していた
私の心がさらに輝きだした。

私はその後、
半年間、
小虎のことを言い出さなかった。

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