小説『小虎』第5章 祭りの日(4)

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人垣の中で浮き上がったような、
端麗な面立ちが目に飛び込んできた。

良子だった。

紺のマント型のコートから
象牙色の顔と手を出している。

両手を揃えて、
上目遣いで、
夢見るような瞳で息子の晴れ姿を仰いでいる。

母が性懲りなく、
めそめそしだした。

二郎叔父が口を開いた。

「十二年祭の稚児は雲が足元に見える山道を下へ、
下へと歩みを進める。

森の中の獣道のような狭い道を下っていく。

本殿も、
拝殿も抜け、
石段を延々と降りていく。

鳥居をくぐり町内を練り歩く。

氏子達に崇め奉られながら、
浜辺へ出る。

朱塗りの極楽船に乗り込み、
沖に出る。

浜辺では爆竹が鳴り、
稚児の出立を祝う。

船の提灯が夜の海を照らし渡す。

島を越えて、
水平線に向かって船は進む。

その後どうなると思いますか?」

「それでお祭りは終わりでしょ?

お稚児さんは、
お着物とお化粧を取って普通の男の子に戻り、
翌朝には、
浜に帰ってくるわ」

「今はそうですけど、
元禄の頃まではこうだったんです。

甲板から見える島が小さくなり、
辺りが白みだしたら、
お付き達は極楽船から降り、
小船に乗って浜辺に戻りました。

極楽船とお稚児さんはそのままで」

「じゃあ、お稚児さんはどうなってしまうの?」

「そのまま海を漂って、
そのうち餓死して、
最後には海鳥の餌になったんじゃないでしょうか?」

母が絶句した。

「そんなのに、
スグル君がならなくて、
かえって良かったじゃないですか!」

父がうん二郎の言うとおりだと、
と深く頷いた。

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