小説『小虎』第14章 めでたいな(1)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

生暖かい風が肌をなでる。

靴下は夜露でほんのり湿っていた。

お神楽の音は次第に遠ざかり、
今は遠くに微かに聞こえるだけだった。

しかし拝殿の方は明るいので私は怖いという気がしなかった。

左手に見える小さな社にはかつて祖父が寄進した一対の狛犬が鎮座していた。

丸っこい子供っぽい顔立ちの狛犬はお揃いの涎掛けをつけている。

赤っぽい涎掛けは風に吹かれ翻っていた。

小虎と私は神社の石段を降りていく。

うっかり滑り落ちないようにこわごわ降りる私に対して、
小虎は身が軽い。

さっきから私が何を聞いても、
ただにこにこ笑いながらめでたいな!
めでたいな!
とスキップしている。

踊り場まで辿りつくと小虎の動きはもっと激しくなった。

必死で飛び跳ねながら、
大声でさけんでいる。

ただぴょんぴょんしながらがら、
はりあげているだけで、
とてもさっきの子供の軽妙な踊りに似ているとはいえなかった。

私は小虎がへたくそなのを馬鹿にしたくなった。

自分ならもっとうまくできると思った。

私も、
めでたいな!
めでたいな!
と声をあげながら飛び上がり、
手足を覚えている振りで、
曲げたり伸ばしたりしはじめた。

小虎は私のほうがはるかに巧みにできることに何の嫉妬も感じないようだった。

ますます嬉しげにジャンプする。

飛んでいるうちに楽しくなってきた。

私と小虎は手と手を取り合った。

小虎が勢いよく跳躍した。

私の足も石段を離れる。

小虎の手によって上へ上へとひっぱられる。

石段を五段上がった所に着地した。

また小虎に体を持ち上げられて蝶の羽のように宙を舞う。

今度は小さな社の屋根の上に降り立った。

体は重力を失ったかのように軽い。

ゲームの中のキャラクターのように自在に動く。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫