小説『小虎』第14章 めでたいな(2)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

めでたいな!
めでたいな!
という小虎のがなり声の後に別の少年の声が合唱した。

誰の声であろうと思っていると自分が大口をあけて、
めでたいな!
めでたいな!
と咆哮していることに気がついた。

屋根から石段に降り、
また石段を一蹴りする。

少し前に随分時間をかけて降りた石段を、
紙飛行機のように一っ飛びする。

手水の上に舞い降りた。

コケでぬめった石の手水だなを足が滑る。

私は宙に投げ出された。

落ちる!
と思っていると、
体が宙返りをした。

一回転する間にふもとの町の景色を空から眺めることができた。

白砂神社の山の下はすぐに海岸になっていた。

神社と海岸の僅かな隙間に、
私の家、
いつも買い物に行く商店街、
小虎の団地、
塾のある隣町が収まっているのだった。

灯台が海を照らしている。

建設中の島へと渡る橋が白々と輝いていた。

その先の島が黒いきのこのように海に浮かんでいた。

随分長い間眺めていた気がする。

足がまた固いものに触れる。

赤い鳥居だった。

私と小虎の声のほかにもう一つ、
めでたいな!
を叫ぶ別の声が聞こえた。

私は右手の平に小虎の爪があたるのがやけに気になりだした。

ふと右手を見ると、
つないでいるのは、
平べったい爪の節くれだった手だった。

顔を上げると、
たわしのようなおかっぱの子供がいた。

おかっぱの下には運慶の八大童子像に良く似た顔がある。

「みいちゃん……」

と私はつぶやいた。

みいちゃんの瞳孔は赤く、
炎のように燃えてた。

オレンジ色の唇を大きく開け、
腹に響く太鼓のような声でめでたいな!
とはりあげている。

小虎とみいちゃんは無表情で狂ったようにめでたいな!
めでたいな!
を繰り返している。

私は恐ろしくなった。

しかし、
私もまるで設定された電子目覚まし時計のように口をぱくぱく動かして、
めでたいな!
と叫び続けているのだった。

暗闇からヤマトタケルの扮装を解いてすっかりいつもどおりになった、
直人さんが姿を見せた。

今日はOBとしてお芝居の大道具係をやっていた二郎叔父も一緒である。

必死の形相で全速力でかけてくる。

ああ助けてもらえる、
と思ったとたん、
脳天に衝撃が走った。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫