小説『小虎』第13章 弟橘姫入水(5)

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青い布を持った黒子はまた舞台に現れた。

もう持衰《じさい》は伴っていなかった。

雷様の扮装をした人と、
青い布をもった黒子はまた舞台の上で暴れ始めた。

船の上の人は膝を床について、
体を揺られるように大きく動かしている。

「持衰《じさい》を人身御供にしたのにちっとも波風がやまない」

「このままでは皆、海の藻屑になってしまう」

ヤマトタケルと船上の一行が途方にくれていると、
ワタクシを海の神様に差し上げたらいかがでしょう?
と姫が名乗りを上げた。

船上の人たちは一斉に姫を見た。

愛しいお前をどうして捧げ物などにできるだろうか、
とヤマトタケルは姫を抱きしめた。

そうですとも!
どうして奥方様を犠牲になぞできるでしょうか?
それならわたくしめが人柱になりましょう、
尊《ミコト》と奥方様の為ならわたくしめの命なぞちっとも惜しくはありません、
と自ら申し出る男もいた。

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