小説『小虎』第13章 弟橘姫入水(7)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

ヤマトタケルと姫は見つめ合っては抱き合い、
抱き合っては見つめ合いながら船の尾へ移動した。

姫が先ほど持衰《じさい》が海へと蹴飛ばされた船の最後尾に立った。

黒子が床にマットを敷いた。

姫は水泳の飛び込みのように両手を合わせて顔の前においた。

目の前の床を真剣な眼差しで眺める。

二人の男が姫のまとった薄絹を広げるように持っている。

姫が飛び上がる。

男が薄絹を手から離した。

オトタチバナヒメに扮した美登利は空中に浮かび上がった。

薄絹が水に溶ける寸前の色水のように空気の中を泳いでいる。

スポットライトが彼女を照らしていた。

青と黄色と赤の混じりすぎて何の色ともいえない不思議な色だ。

「わがあつまあよおお!」(我妻よ!)

ヤマトタケルが絶叫して、
空気が抜けたように膝を突いて倒れこんだ。

気絶してしまったらしい。

周りの男たちが介抱をしている。

美登利は飛び上がって間もなく
三人の黒子に宙で体を支えられた。

黒子は美登利を床に敷かれたマットの上に腹ばいの形で置いた。

二人の黒子が美登利を乗せているマットを床を滑らせて、
舞台袖へと引っ張っていった。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫