小説『小虎』第13章 弟橘姫入水(8)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

波の音は穏やかになり、
雷様と青い布を翻していた黒子も退場した。

大波の背景がぺらりとはがれる。

ぱたりと白い裏側を見せて床に落ちた。

黒子がそれを片付ける。

後ろから現れたのは見慣れた白砂神社から見える海景色だった。

漁船が沖に並んでいる。

夕凪の時に撮影したらしい。

オレンジがかった空を背景にした海には一つの波立ちも無い。

陽気なお神楽が始まった。

気絶していたヤマトタケルが立ち上がった。

男達と一緒に舞台の前面にでてきてぺこりとした。

優しい笑顔のヤマトタケルはいつもの直人さんだった。

続けて美登利と持衰《じさい》が舞台の左端から現れて
また観客に挨拶した。

最後に黒子たちが出てきてお辞儀をすると、
緞帳が下がり始めた。

出演者達は舞台右袖へと退場していく。

周囲の人達は芝居の感想を言いあっている。

親は子供にあらすじを書いた紙を見せて、
歌の意味の注釈をしている。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫