小説『小虎』第13章 弟橘姫入水(9)

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がたがたとパイプ椅子が揺れる音がする。

観客席の人たちが立ち上がりだした。

地球の真ん中から響いてくるような音がした。

地響きは私のつま先から登る。

腹の中をこだました。

そして上昇すると頭蓋骨の中で打ち上げ花火のように破裂した。

轟音は私の頭の上からも降りてきた。

どがらん!
と私の頭をとんかちのように地面に向かって打ち付ける。

耳をつんざく音は私を右からも左からも襲った。

私は両脇からそれに挟まれて押しつぶされた。

太鼓の皮の下に入って上から思い切り撥で叩かれている思いがした。

辺りは世界の終わりの日に降る豪雨にも似た、
打音に包まれていた。

緞帳が上がった。

舞台の上に人が蛙のようにぴょんと現れた。

蜘蛛のように長い手足をむき出しにしていた。

「めでたいな!」

「めでたいな!」

男とも女とも大人とも子供ともつかない声だった。

めでたいな!
とがなりながら舞台の上の人は
和太鼓に似た爆音に合わせて飛び跳ねている。

脚をがにまたにした格好のまま、
舞台の天井近くまで飛び上がる。

猫のように軽やかに飛び降りると
いつ弾みをつけたのかわからないほどすぐにまた飛び上がる。

舞い上がるごとに、
めでたいな!
と叫ぶのだった。

まるでのみのジャンプを物凄い倍率で拡大して見ているようだった。

「めでたいな!」

舞台の上の人は肩につくぐらいのおかっぱ形の髪をはりねずみのように立たせている。

「めでたいな!」

着物は麻風の粗末なものだった。

着物や姿形は薄汚れてくすんでいたが、
その人は溌剌とした少年のように見えた。

「めでたいな!」

私は目を凝らしてみてこれはさっき楽屋にいた子供であることに気がついた。

「めでたいな!」

十分ぐらいめでたいな!
と叫びながら飛んだりはねたりした後、
唐突に緞帳が落ちてきた。

「めでたいな!」

耳元で大きな声がした。

音のするほうを振り向いた。

小虎が両手を胸の前に置いて拳をにぎりしめている。

舞台の上に向かって、
燦燦と目を輝かせめでたいな!
と叫んでいる。

周りの人が怪訝な様子で私と小虎を見ている。

私は頬を熱くした。

小虎をひっぱって席を離れる。

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