小説『小虎』第23章 さよなら故郷(1)

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電車を降りてホームに降り立った。

電車の中にも私以外一人しかいなかったが、
ホームの上には誰もいない。

向こう側の上りのホームも同じだった。

空気が出てきたときよりも大分暖かくなっていたのを感じた。

もう三月なのだ。

スーツケースをごろごろさせながら、
踏み切りを渡る。

野草がぽつぽつと芽を出していた。

森閑とした駅舎に入る。

ぱちんという切符を切る音が響いた。

私は久しぶりの自由に戸惑っていた。

待ち望んでいたことなのに嬉しいというよりも
これからどうしようという思いの方が強い。

東京で試験をすべて終え、
第一志望の合格を知ったところで、
私はインフルエンザで寝込んでしまった。

二週間近く寝てすごした後に、
急いで学校に直行し卒業式に出席した。

そして今、
故郷へと戻る。

出発した時の緊張とは正反対の呆けた気分だった。

ふわふわとして何だか不安である。

もう受験勉強しなくていいだなんて信じられなかった。

バスの座席についてから、
大学に入ったって英語は必要なんだ!
とひとりごちた。

鞄から英単語帳をとりだした。

読みはじめると、
気分が落ち着いてきた。

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