小説『小虎』第23章 さよなら故郷(10)

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私はよくもまあこんな作り話考えつくものだな、
とあきれた。

だいたいその百人の恨みがまとまってできた鬼がした悪さといえば
野良猫一匹殺しただけじゃないか。

なんてへっぽこな悪霊なんだろう。

周りの皆を観察してみる。

妹は口元に力をいれ、
眉をハの字にして眉根に皺を寄せている。

「何いってんのこの人?」
という感じである。

母は目を見開いて、
口を半開きにしてぶるぶる震えている。

二郎叔父は腕を組んだ形から左腕だけを上に折り曲げて、
指で顎をいじっている。

真剣な面持ちだった。

父はうんうんなるほど、
とうなずきながら、
人生相談をして何かためになる話を聞いたときのような顔をしている。

「ええ、
確かに田中家は江戸時代初期に弓矢を捨てて漁業や農業を始めましたが、
その時代はまだ武家だったのです。
中には殿様の側近の地位についた人もあると聞いています」

としみじみ語った後こう続けた。

「そんなことがあったのですね……
実は私もずっとそんなことではないかと思っていたのです」

大真面目にこんなことを言っている父に私は驚いた。

「もちろん、
リクさんのお話のような具体的な話は思いもつきませんでしたが、
この子には白砂様と何か浅からぬ因縁があるとは薄々感じていました。
それでなるべくこの土地からは引き離した方がよいと思っていました」

「それで、
兄さんはスグル君に病院をつがせようとしなかったし、
遠くの学校に転校させたんだよね」

二郎叔父も真剣な顔でこう同調した。

「そうでしたか、
それはご賢明なことで、
でもスグルさんはこんな話は信じられないようですね」

リクさんがそんなことを言うので、
私はどきっとした。

今まで彼女のことを怪しい霊能者と内心馬鹿にしていたが、
思っていることをずばり当てられて、
彼女のことを見直した。

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