小説『小虎』第23章 さよなら故郷(12)

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慌てる私、
母、
妹に対して父と二郎叔父はすっかりリクさんの味方で
私をすぐにでも家から追い出そうとする。

結局、
翌々日、
私は予定を二週間早めて東京に向かった。

アパートへの入居までの二週間は叔母の家にやっかいになることにした。

駅まで二郎叔父と妹が送ってくれた。

駅前で二郎叔父が偶然知り合いと出くわし、
立ち話をした。

その合間に妹が私にこう聞いた。

「パパとママ、
リクさんに幾ら御礼払ったか知っている?」

私がそんなのわからないというと、
妹は五本の指を大きく開いた。

私が五万円?
と聞くと、

「五十万よ!
五十万!
私がお琴の発表会の時に十万円の小振袖着たいってお願いした時は
うちはお金持ちじゃないから高校生にそんな高い物は買えないって言ってたのに!
お稽古の友達はみんなもっと高いお着物、
二枚か三枚持っているのに!」

妹は口をとがらせて、
リクさんの持ち物を一つ一つあげだした。

あの着物は白大島といってとても高いものだとか、
あの鰐皮のバッグは○○というヨーロッパの王妃様ご用達のブランド品で
五十万するものだとか、
あの指輪と帯留めはロウカンヒスイといって
あの大きさから言って二百万はくだらないとか、
あの帯は新聞広告で見た限定版の作家者で
ママが欲しがっていたけど何十万もするので買うのをやめたとか、
男にはとんと興味のわかない話ばかりだった。

「あのリクさんて、
オバちゃんと顔は似ているけどぜんぜん違う!
適当なこと言ってお金だましとる詐欺師よ!

ご先祖の話なんてお爺ちゃんやパパが何百遍もオバちゃんにしているんだから、
リクさんが知っているのもあたりまえだわ!

それにしてもお兄ちゃんばっかしひいきだわ!
うちってやっぱり男尊女卑よ!」

列車が動き出した。

ホームで手を振る妹と二郎叔父が豆粒の大きさになり、
やがて消えた。

私は反対側の窓を見た。

窓いっぱいに白砂神社の森が見えた。

青々した常緑樹の中に赤い鳥居が鮮やかである。

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