小説『小虎』第23章 さよなら故郷(7)

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神棚の下で白い着物に着替えたリクさんが、
黒い勾玉が所々にある
古墳時代風の数珠のようなものを手に巻きつけて、
呪文のようなものを唱えている。

しきりに咳をしだした。

今、
スグルさんの体から沢山の邪気が出て、
私の体を通って外に出ていくのです、
と咳の合間に苦しそうに説明した。

「うう、
うう」

リクさんがうなりだした。

顔に眉根を寄せる。

みみずく形の体がぶるぶると左右に振動する。

次第に体は上下斜め左右とめちゃくちゃに揺れだした。

リクさんの座る座布団の上にだけ
震度十の大地震が起きたかのようである。

ムンクの「叫び」のようなけたたましい悲鳴が家中に響き渡った。

だるまのような体が吹き飛ばされるように座布団から離れた。

まるまるとした背中が私めがけてぶつかってくる。

一瞬目をつぶってからまた開いた。

リクさんが私の目の前で倒れている。

リクさんがマラソンの後のような息をしながら、
体を起した。

着物がはだけている。

お化粧も大分取れてしまった様子で疲れた顔をしていた。

「失礼しました。
でもこれで悪い鬼が離れていきました」

リクさんによると私には鬼塚が放った鬼が取り憑いていたそうだ。

放っておけば命が危ない所だったという。

白砂神社でご祈祷をしてもらったのに!
と父が言うと、
「白砂神社の神様、
○○○姫様は大変ありがたい女神様です。

今の宮司の○○さんも若い頃○○山で修行をなさった方で、
確かな力をお持ちですが、
やはりこのような鬼を祓うことはできないのです」

命が危なかったなんて言われて私は肝が冷えた。

彼女によると、
島独特の呪方で作られたこの鬼を祓うことができる霊能者は
日本にたった二人しかいないのだという。

「それはワタクシの師匠とワタクシだけです」

リクさんは神妙な顔で私を見ながらこう言った。

「実はこの鬼の他にもう一体悪いものが取り憑いていました。
むしろこちらの方が強いぐらいでして、
苦労しました」

それはなんですか?
と父が尋ねた。

リクさんによると……

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