小説『小虎』第23章 さよなら故郷(8)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

武田信玄とか上杉謙信が活躍していた時代のことである。

その時代の中心地からは、
だいぶ離れたこの土地では、
その当時も白砂神社の十二年に一度の祭りはあった。

今とほぼ変わらない形式で行われていたという。

武家の少年の中から、
お稚児さんが選ばれて、
町内を練り歩いた後、
「極楽船」と呼ばれる中華風の飾りつけの派手な船に乗って浜から島にむけて出航する。

「しかしその頃のお祭りは今とは少し違いました。
今はお稚児さんは島を越えたところで戻ってきますけど、
昔は浜を出発したきり戻ってこなかったのです」

リクさんは両手をひらいて腰の辺りに置くと、
手を波のように動かしながら歌い出した。

「どんぶらこっこ、
どんぶらこっこ、
ざっばーん、
ざっばーん」

おシマおばちゃんそっくりの美声である。

「お稚児さんは、
たった一人、
がらんとした船で海を周遊して、
最後は飢え死にし鳥の餌になりました。
あるいは船が波に飲まれて溺れて、
お魚の餌になったのかもしれません。
こおおよおいは、
さあかなのえんかいだ!
(今宵は魚の宴会だ!)」

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫