小説『小虎』第27章 積年の思い (5)

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車は実家の近くを通り過ぎる。

久しぶりの故郷の町はイメージの中よりもずっと小さく安っぽい。

建物はどれももう長い間手入れがされていないらしい。

ペンキがはげていたり、
さびていたりだった。

うらわびた町を眺めつつ小虎に目を落す。

まるでふるぼけた白黒写真の中、
彼だけが高画質のカラーで写っているかのようである。

はがれかけたポスター、
蔦に覆われた廃墟、
終わりのほうの字がとれて跡のみのこっている看板、

そんな風景ばかり続く。

人気がなく、
たまに背中を丸めたお年寄りが危なっかしく歩道を歩く。

古めかしいデザインのタクシーが通る。

かつては随分立派に見えた、
島に渡る橋も今はただの古びた鉄橋だった。

オレンジ色の海の中を走っていくと、
黒い木々で覆われた島が次第に大きくなっていく。

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