小説『小虎』第11章 先客(2)

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二回だけ小虎に先客があったことがある。

その日私は無数のイチョウの葉がこびりついた
湿っぽい団地の入り口を通った。

古びたコンクリートの階段を上る。

ターコイズブルーのざらざらとした戸の前に立つ。

黄ばんだプラスティックにシールの剥がされた跡があるドアフォンの、
四角いボタンを押す。

ポーンという鈍い音がした。

はあい、
という良子の声がして、
ドアがカチャという音とともに開いた。

畳を歩いていくと、
半分開いた桜型の千代紙の張られた障子が見える。

その向こうに、
くりくり坊主の小虎が見えた。

手を合わせて置物のように、
正座をしている。

合掌した手が線香花火のようにぐらぐらと細かい振動を始める。

ゆれ幅がしだいに大きくなる。

しばらく眺めていると、
その頃流行っていたクラッカーという玩具のように大幅に揺れだした。

小虎の座布団の上にだけ震度7の地震が起きたかのようである。

ことら……
と声を出すと、
良子が、
中腰になった。

私の肩に左手をあてる。

人差し指を唇の前にあてて、

私を見つめた。

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