小説『小虎』第26章 それから(1)

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JRから私鉄に乗り換えた。

わずかな時間、
雑居ビルが並ぶ景色の中を走ると、
窓の外はあっという間に、
畑に囲まれた世界になった。

妻はアルミのサッシにもたれかかるようにして、
外に目を向けている。

しばらく外を眺めていた妻が、

「空き家になったのっていつだったかしら?」

「二年前だよ、
父さんが免許書を返したのが二年前だから」

「あの辺りは車がないと不便だものね……
でも隣りに大型スーパーができるなら便利になるんじゃない?」

「でもやっぱり古すぎるし、
一人に住むには広すぎるんだって。
それに父さんって家の近所より市内の方が友達が多いんだ」

三年前に母が亡くなった。

しばらく父が一人あの家に住んでいたが、
一周忌が終わるとともに市内にある直人さんと妹の家に移り住んだ。

父はそのころ、
目の病気を理由に運転免許を返納していた。

今や父には車を持っていることが必然の田舎の暮らしは不便すぎた。

「それにしてもあのお家を壊しちゃうなんてもったいないわね。
あんな本格的な日本建築いまさら建てられないわよ」

「いまなら高く売れるんだ。
さとみのとこは太一(主人校の甥、妹夫婦の長男)の教育費もこれから大変だろう? 」

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