小説『小虎』第26章 それから(2)

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一年程前、
建設予定の大型スーパーから父に申し出があった。

実家の土地を駐車場にしたいらしい。

病院は昔に比べると患者さんも減って、
太一の医学部の学費が出せるかといつも心配していた妹夫婦には渡りに船だった。

もちろん大分悩んだそうだが……
私はスマートフォンのLINEアプリをタップした。

今年の十一月になったばかりのある日に妹から来たメッセージを眺める。

「一昨日、
またパパと直人さんと家族会議をして、
ついにスーパーにお家を売ることに決めました。
お家がなくなっちゃうのは寂しいけど、
やっぱりこのチャンスを逃す手はないと思うのよ。
ご近所もほとんど、
立ち退くことを決めたそうです」

リクライニングできない固い背もたれに向かって、
背中をのけぞらせた。

目の前では古びて黄ばんだまん丸のつり革が左右に揺れている。

伸びをした背中を元に戻す。

今度は写真アプリを立ち上げた。

そうだ写真見る?
と妻にスマートフォンを差し出した。

まめな直人さんが(暇だからだよ……と謙遜するが)
最近古い写真を電子化して、
クラウドに保存しスマフォで見られるようにしてくれたのだ。

主に私、
妹、父、
母、二郎叔父、
直人さん、正太、
美登利で構成されている。

時折良子と小虎も片隅の方に写っている。

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