小説『小虎』第26章 それから(3)

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昔の写真を見ていつも信じられなく思うのは、
正太、美登利の愛らしさである。

レトロな写真の中の二人は天真爛漫な天使そのものだった。

当時はこんな可愛く見えなかったなあ、
いじめっ子だったんだよ正太って、
と妻に話すと

「うそでしょ?
あの落語家の正太さんが?」
と驚く。

正太は芸能関係を目指して、
私以上に迷い多き青春を送ったらしい。

長らく直人さんに最近、
正太はどうしているかと聞いても、
いつも
「生きてはいるようだ」
という返事しかもらえなかった。

それがつい今年の夏、
妻から、
スグルさん、
落語家のお友達なんかいたの?
と言われハガキを手渡された。

「笑点」のような派手な着物を着た、
エビス顔の噺家のイラストの上に

「暑中お見舞い申し上げます。
やっと二つ目になれました。
お時間あったら寄席に来てください
○○亭 笑太(木田 正太)」
と書かれていた。

自分でも意外なことに、
それを読むなり寄席に行ってみようという気になった。

行ってみたら結構面白かった。

楽屋を訪ねたら、
暑中見舞いのハガキそっくりのにこにこ顔で出迎えてくれた。

寄席に行った次の日の夕方には丁寧なお礼状を受け取った。

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