小説『小虎』第8章 頼みの綱(3)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

とぼとぼと、
家まで頭を垂れて帰った。

玄関をよじのぼり、
廊下の先の電話の黒い受話器を震える手で取る。

覚えている限りの、
遊んだことのある男児に、
電話をかける。

女の子とは遊んじゃいけないんだ、
男の子と遊ばないと、
と思った。

数少ない同性の友達を必死で思い出した。

学区の違う幼馴染や、
二歳年上の従兄弟にかたっぱしから電話をする。

皆もうでかけたとか、
他の子と遊ぶ約束をしたからとのことだった。

遊びの約束は一向にとれない。

私は同じ通りの一つ年下の酒屋の息子、
正太に電話をした。

正太はいつか私の犬の動くぬいぐるみをよってたかって奪い、
池に落とした子である。

あの時は小虎に一喝されて、
逃げ帰った。

しばらくは私をいじめなかった。

まもなくそんな事も忘れたようで、
いつも私の事を、
青びょうたんと馬鹿にする。

機嫌が悪い時は私に拳骨を食らわす。

この前は私の大切にしていた電車模型を借りたきり返さなかった。

催促に行くと人にやった、
と平然としている。

私が泣いて責めると、
お前んち金持ちのくせにけちだな、
と平手打ちをされた。

叩き落とされ私は、
地面につっぷした。

大人に言ったら絞め殺すからな!
と私の手を踏みつける。

電話をかけたすべての少年に断られた私は、
この横暴な少年を思い出した時、
にわかに彼が大親友のように思えた。

指を穴につっこむ。

せわしくダイヤルを回す。

ダイヤルがのんびりと戻るのがもどかしい。

じりじりという音のあとに受話器を取る音がする。

聞こえてきた声は正太の高校生のお兄さんだった。

直人さんといって弟とはうってかわった大人しい優しい人だった。

「こんにちは、正太君いますか?」

「正太ならもうどこかに遊びにいっちゃったよ」

「じゃあ美登利ちゃんはいますか?」

もう女の子でもいいやと思った。

「美登利は剣道に行ったよ」

じゃあお兄さんは一緒に遊べますか、
と私がおずおずと尋ねると、
えっ!?
とびっくりした声が返ってきた。

「僕が君と遊ぶ?」

沈黙の後、
ごめん僕はこれから予備校だから、
と聞こえた。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫