小説『小虎』第8章 頼みの綱(4)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

私は受話器を置いた。

電話帳を見ると、
正太と美登利の父である木田信弘のすぐ下に木林良子(旧姓武藤)とある。

私はおそるおそるダイヤルを回した。

涼しげな声が聞こえた。

「木林です」

「あ・・・あの田中スグルです。
小虎お兄ちゃんは?」

沈黙の後、
スグル君?!
と良子は驚いた様子だった。

「あのおばさん、
小虎お兄ちゃんはもう元気になりましたか?
一緒に遊べたらと思うのだけど」

長い長い沈黙だった。

「あの、
おばさん?」

良子はぽつりぽつりと語りだした。

「あのね小虎は、
赤ちゃんになっちゃったの。
それでもよければ遊んでくれる?」

「小虎お兄ちゃんが赤ちゃんに?」

良子は、
小虎は水に落ちた時、
脳に酸素がいかずに、
それが原因で頭があまり機能しなくなった、
そのせいで小虎の心は成長せずに、
むしろ後戻りしてしまった、
今では赤ん坊のようである、
それでも良ければ小虎と遊んでくれるか?
と聞いた。

私は訳がわからなかった。

しかし、
遊ぶ友達はどうしても欲しかった。

それに以前生まれたばかりの従兄弟を膝に乗っけてあやした時、
楽しかったことを思い出した。

うん、
小虎お兄ちゃんが赤ちゃんでも遊んであげるよ、
と答えた。

良子はそれならいらっしゃい、
カステラ用意しているから、
と電話を切った。
私は良子から、
彼女の家が何処にあるか初めて聞いた。

白砂神社の鳥居のすぐ近くの団地だという。

神社には何度も行ったことがあるから、
私は一人で行けると思った。

居間をのぞくと、
オバちゃんが妹を抱いて居眠りをしている。

そろりそろりと廊下と玄関を抜けると、
門をくぐる。

門を出るやいなや、
私は駆け出した。

道を走る私は、
良子が小虎が赤ちゃんに戻った、
と言っていたことはすっかり忘れていた。

遊ぶ友達が見つかってよかった、
それにしても今日はお菓子づくしだ、
とスキップをした。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫