小説『小虎』第17章 友との帰省(3)

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小虎はどうしているだろう?
と久しぶりに思った。

いつも彼のことを思い出すことなどなかったけど、
昨晩小虎の夢を見たのだ。

どういうわけか小虎もこの学校に転校してきて、
私と同じ部屋に住んでいる。

小虎はまるであのまま事故にあわず正常に成長したような賢そうな青年である。

半分ケンイチが混じったかのような人柄だった。

そこにみいちゃんが遊びに来る。

はじめは三人で和気藹々としていた。

「めでたいな!」と掛け声をあげながら跳ね上がる踊りの練習をしている。

次第に二人は私にはわからない外国語かなまりのきつい方言のような言葉で話し出す。

私は嫉妬にかられ小虎に話しかける。

しかし小虎はみいちゃんとの会話に夢中で私に取り合わない。

たまにゴメンゴメンとあやまるが、
すぐにみいちゃんと仲睦まじげに話し出す。

私はついに腹を立てた。

どうせ僕なんか邪魔だろう!
と私と小虎のベッドの間の間仕切りカーテンを引っ張る。

カーテンを引ききると、
カーテンだったのがいつの間にかしっかりとした壁になっている。

壁には窓まである。

窓の外には一面の初夏の青々とした茶畑が広がっている。

小虎にはあの芝居に出た日以来一度も会わずじまいだった。

さすがに私も四十日間ある夏休みには毎年帰っていた。

しかし新しい学校の友達、
難しくなった勉強、
それにクワイヤに夢中だった私は一度も彼に会いに行こうとしなかった。

毎年、
夏休みも終わりいよいよ家を出るという時になって、
わたしは始めて小虎のことを思い出した。

二郎叔父に彼の消息を聞いた。

二郎叔父がうん、
元気にしているらしいよ、
と答えると私はすっかり安心して、
来年会えればいいさ、
と思った。

毎年学校に戻るときに小虎を思い出す、
というのは嘘だった。

去年はロバートが九月の初めに学校に短期間だけやってくることになった。

彼に会う一ヶ月も前から待ち焦がれて、
ほかの事は眼中にないというありさまだったから、
去年の夏は小虎のことなんかつゆとも思い出さなかったのだ。

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