小説『小虎』第18章 突然の知らせ(5)

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良子が亡くなったのは、
四ヶ月前、前年の十一月だったそうだ。

ただ体調が悪くなりだしたのは、
私が転校した頃からだという。

病床で良子は母に自分が長生きできないのはわかっていた、
と言ったらしい。

「小さいときに小虎君がお池に落ちたことがあったでしょ?
その時に小虎君のママはこう神様にお祈りしたんですって」

良子は自分は小虎が無事に成長するまでの寿命でよいから、
小虎の命を助けて欲しいと白砂神社にお百度参りをしたという。

だから自分が早くに死ぬことはわかっていた
と母に告白したそうだ。

「だけど良子さんやはり心残りだったろうな。
本当はせめて小虎君がこれからどうやって自立するのか方向性だけでもわかってから、
逝くつもりだったと思うよ」

いつの間にか母に茶の間に連れて行かれて、
大人達の夜のお茶会に参加していた。

ふかふかの座布団に膝をうずめる。

二郎叔父に借りたちゃんちゃんこで体をくるんだ。

ほうじ茶をすすりながら、
ちゃぶ台の上のふがしをつまみながら、
大人たちの世間話を聞いていた。

叔母も遊びに来ていたので賑やかだった。

「でも親戚の叔父さんがいたからよかったじゃないか?」

「ホント!
その人は占いをやっている拝み屋さんなんでしょう?
小虎ちゃんにはぴったりよ!」

「あの子、
随分無くなったものを見つけたりしているらしいね」

「でも良子さん本当は不満だと思うわ。
いつも小虎ちゃんを祈祷師や占い師にする気はない、
と言ってらしたもの」

「あの子はそれ以外でどうやって生きていくというの?」

「美大に入れてお父さんのような画家にしたいって言っていらしたけれど」

「私も聞いたことある!
私それ聞いて良子さん、
暮らしが苦しすぎて夢みたいなこと言うようになっちゃったと思ったわ!」

小虎は遠縁にあたる
島に住む個人営業の祈祷師にもらわれていったという。

母は小虎を近所でたまに見かけるそうだ。

島に架かる橋が完成してバスも通っているから、
おそらくそれに乗ってやってくるのだろうとのことだった。

私は小虎に会いたかったけれど、
ケンイチの手前おおっぴらには探せなかった。

新学期を間近にして、
私とケンイチはバスに乗って駅に向かった。

バスの中から何度も島をちらちらと盗み見た。

お饅頭型の島にはこんもりと常緑樹が生い茂っている。

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