小説『小虎』第19章 噂(2)

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「ほら山口さんの奥さんって、
占いとか神様とか好きじゃない?

それでこの前、
島の拝み屋の鬼塚先生を呼んだのよ。

そしたら小虎君も先生の荷物を抱えて、
ついてきたんですって!

先生はいつものように座布団にどかって座って、
お茶を飲んでお菓子を食べて、
世間話をしだしたんだけど、
それが島の橋の話から、
俳優の不倫の話にまで及んで、
延々と止まらないのよ。

小虎君はずっとその間、
横で正座していて、
一言も話さないんだけど、
たまにオドオドと、
お菓子に手を伸ばしたりすると、
先生が、
ばかやろう!
半人前のただ飯ぐらいのくせに!
とどなって、
手をぴしゃっ!
と打つんですって!

山口さんは可哀想になって先生を宥めて、
これは小虎君の分って、
ケーキ用のお皿にいくつか若い子が好きそうな洋菓子を入れて、
小虎君が座っている前に置いてあげたらしいわ。

先生は、
お昼に来て、
もう夜の八時近いのにおしゃべりとおやつばっかり。

その合間に、
お手伝いさんがお茶のお代わりを持ってきたりすると、
お尻を触ったり、
男はできたのか?
ってからかったりしてなかなか本題に入らないんですって。

それで奥さんがついに痺れをきらして、
あの……息子は今年こそ試験に合格するでしょうか?
って聞くとやっと先生はああと言って、
小虎君を連れて、
奥の部屋に着替えに行ったらしいわ。

先生が着物姿で出てくると、
小虎君も白い着物に鉢巻をして、
両手にお道具を抱えていたそうよ。

先生が鏡に向かってお祈りした後、
小虎君の手を叩くの、
すると小虎君が先生の耳元で何かぼそぼそと言ったというのよ!

すると先生が奥さんの方を向いて、
予備校を変えた方が良いとか、
憲法はもういいから民法を勉強なさいとか言うんですって。

奥さんが言うには、
先生は小虎君に聞いたのをそのまま伝えているだけじゃないかって。

最後に息子さんの参考書を先生の前に出すと、
先生が筆を硯につけた後、
筆を額に当てて気を込めなさった後に、
小虎君におい!
とどなったらしいわ。

するとさっきまで天井の方を向いてにこにこ笑っていた小虎君が先生の筆を取って、
鼻歌を歌いながら、
参考書の裏表紙にお人形さんと熊さんが森で遊んでいる、
可愛らしい絵を描いたそうよ。

前は先生が立派な字で護符を書いてくださったのに、
いつの間に小虎君のお絵かきになっちゃったのかしらね!?」

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