小説『小虎』第12章 前夜祭の芝居(4)

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫

着物も鬘も化粧も落とした。

いつもの自分に戻った私は開放感から飛び回るように楽屋で遊んでいた。

奥からざわつきが沸き起こり、
三幕目の出演者が現れた。

最初に白い裾を蹴っ飛ばしながら現れたのは
神代の昔からやって来たかのような
古風ないでたちの小柄な女性だった。

白い簡素な衣装に錦の帯を締め、
首から勾玉のネックレスを下げている。

長い髪を後ろに垂らして、
鉢巻をしていた。

そんな格好にピンクともオレンジとも灰色ともいえない不思議な色の軽やかな薄い布を絡ませていた。

学習漫画の女王卑弥呼と羽衣伝説の天女が合わさったかのようだ。

白粉化粧の顔は見覚えがあったが、
誰だか思い出せない。

お芝居に参加できるのは小学五年生からだった。

華奢な体つきと顔立ちから自分と同い年か年下に見えた。

「天女様!」

小虎が叫ぶと共に、
その弥生もしくは古墳時代風の貴婦人の両手を掴んだ。

さっき私に見せたような、
いやそれ以上の必死の形相だった。

「天女様! みいちゃんは元気ですか? 」

「ええ!? あんたなに!?」

天女様は目をぱちくりさせて蓮っ葉な声で答えた。

「ねえ天女様! どうして最近みいちゃんが遊びにこないか知っていますか?」

「みいって、誰よ?」

「みいちゃんは僕の友達です。ここの山の上の方に住んでいるんです」

「そんなとこに住んでる人がいるの? 男子? 女子?」

「男の子になったり女の子になったりします。女の子の時は天女様の後ろの方で飛んでいます」

小虎に食いつかれ、
天女様が変な顔をしていると、
出番を終え普段着に着替えた正太が天女の耳元でささやいた。

「あれじゃねえの?
頭の中の友達ってやつ」

しばらくこそこそ囁きあっていたが、
天女は急に笑顔を作った。

「エエそうよ、
私は天女ヨ、
ミイちゃんなら元気にしていたワヨ、
そのうちあんたの所に遊びに来るって言ってたワ」

まわりがどっと笑い手を叩いた。

本当ですか!
本当ですか!
と小虎が目をネオンのように輝かせた。

「エエ本当よ!
今晩あたり来るらしいワ!」

やったあ!
と小虎が小躍りした。

≪前へ    ≪目次≫   次へ≫