小説『小虎』第12章 前夜祭の芝居(6)

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「民謡友の会」の太鼓と歌声が止まった。

直人くん出番だよ!
とOBの叔父さんが現れた。

直人さんはじゃあ、
君達も見ておいで、
といって白い紙を渡すと舞台に向う。

渡された紙はあらすじを書いたものだった。

それによれば直人さんの役はヤマトタケルで、
美登利の役はヤマトタケルの奥さんらしい。

観客席に向かうと良子がいた。

良子は私に近づくとにっこりと笑った。

「スグル君お疲れ様!
上手だったわ。
本当に可愛らしかった。
でも女の子の役をやると、
やっぱり夢子さんに似ているわね」

私はおばさんありがとう、
と礼を言った。

良子によると私はとても上手かったけれど、
あれえあれえ!
と大げさに叫びすぎるのが玉にきずだったという。

ただそれ以外はとても良かったそうだ。

「僕は上手くないよ、
上手いのは正太だ」

と反論すると、
良子は
「私はああいう、
こまっしゃくれたのって嫌いよ」
とふんと鼻を鳴らす。

我知らず口元が緩むのを感じた。

ここで私は大変なことに気がついた。

財布やカメラを入れたウエストポーチを楽屋に忘れてきたのだ。

慌てて楽屋にもどると、
障子の奥にきらきらと光るものがあった。

私は気になって障子の向こうの部屋を覗き込んだ。

古墳時代風装束の美登利が鏡台に顔を映していた。

自分に見とれるかのように、
嫣然と微笑んでいる。

光るものの正体が彼女の背負った羽衣のような薄絹であることを確かめた私は、
さっさと荷物を取り、
その場を去ろうとした。

うっかりと張りぼての蛇を踏みつけた。

がさりと音がした。

美登利がこちらを振り向いた。

私をぎらりと包丁を投げつけるように睨み付けた。

なに覗き見してんのよ!
と袖を私の顔に叩きつける。

肩から垂らした薄布で床を払うように、
舞台袖に向かって行った。

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