とりあえず腹ごしらえをしましょうよ、
とコウス様を騙して、
ある女の家に無理やりお連れした。
彼女の家で、
握り飯を握ってもらう。
ほおばりながら、
どうやってコウス様を説得しよう? いや、
眠り薬でももって、
眠っていらっしゃる間につれて帰ってしまおうか? と煩悶していた。
ふと、
あたりが若い娘の声で騒がしくなった。
何だね? と尋ると、
女がこう教えてくれた。
クマソタケルの屋敷で、
今夜の戦勝祝いの宴会の為に、
お酌をする若い娘を集めているらしい。
一晩働けば、
褒美にお米一俵をもらえるそうだ。
そこで近所の女の子達が、
皆で連れ立って行こう、
ということになって、
その話でもりあがっているのだという。
それを聞いたコウス様が、
にわかに目が覚めたような顔をなさった。
立ち上がり、
拝み屋の女に向かって、
きっぱりとした声で、
お前、
女物の着物を二揃いと、
化粧道具を貸してくれないか? とおっしゃった。
女装して逃げようとお考えになったのだろうか? ただ、
そんなことは一番コウス様が嫌うことなのに、
急にどういう風のふきまわしだろう? コウス様のお顔を見れば、
さっきとは別人のように晴れやかだった。
どうやら運が向いてきたようだ、
とおおせられる。
何を考えていらっしゃるのかと聞くと、
なんとお酌の娘達に混じり、
クマソタケルの館の宴会に入り込み、
そこでクマソタケルの命を狙おう、
とおっしゃる。
私は最初冗談かと思った。
しかし拝み屋の女もすぐにその作戦に納得して、
さっさとコウス様の着付けとお化粧を始めた。
コウス様は、
あっという間に素敵な美女となられた。
さあ次はあなたの番よ、
と女にせかされる。
下着姿になり、
手をあげ、
着付けと化粧をされる。
コウス様を見ると、
コウス様は私の着付けをじっと観察しつつ、
ケタケタと笑っていらっしゃる。
「さあいっちょあがり。
われながら傑作よ。
見てごらんなさい」
女にそう促されて、
姿を水桶に映してみる。
そこには、
まるで樹齢数千年の巨木や、
注連縄をめぐらせて信仰されている巨石が白粉を塗り、
晴れ着でめかしこんだような、
いかつい醜女が映っていた。
私は、
ぎゃっ! と声をあげてのけぞった。