お客が来たので拝み屋の女が出て行った。
目の端から、
紅色に染まったコウス様の人差し指の腹が飛び込んできて、
私の頬に当たった。
私の顔をご覧になりながら、
「お前ますます可愛くなったぞ」
と大笑いをされる。
どう変わったんですか? と聞いても、
教えて下さらない。
もういちど水鏡をのぞくと、
さっきの酷い醜女の頬の真ん中に、
桃のような、
まん丸の頬紅がさされている。
醜いだけでなく、
まるで馬鹿みたいな女になっていた。
「ははは、
ははは」
コウス様は気でも狂ったかのように大爆笑をなさっている。
膝を折って地べたに座り込んで、
こぶしで地面を叩きながら笑う。
膝を抱え寝転んで、
しまいには体を草の上に転がしながら笑い続けていらっしゃる。
私は、
コウス様がおかしくなったのではないか? と当時は不安に思った。
後で思い返せば、
いくら豪胆なコウス様といえ、
たった二人で敵の館に乗り込むのは恐ろしく、
それでその不安を打ち消すかのように、
大笑いをされていたのだろう。
笑いすぎて、
せっかくの化粧も着付けもとれてしまった。
またきれいに化粧と身づくろいをするとコウス様と私は、
つれだってクマソタケルの館まで行った。