『クマソタケルの館にて』 第1章【フリー朗読台本:短編小説】

お客が来たので拝み屋の女が出て行った。

目の端から、
紅色に染まったコウス様の人差し指の腹が飛び込んできて、
私の頬に当たった。

私の顔をご覧になりながら、

「お前ますます可愛くなったぞ」

と大笑いをされる。
どう変わったんですか? と聞いても、
教えて下さらない。

もういちど水鏡をのぞくと、
さっきの酷い醜女の頬の真ん中に、
桃のような、
まん丸の頬紅がさされている。

醜いだけでなく、
まるで馬鹿みたいな女になっていた。

「ははは、
ははは」

コウス様は気でも狂ったかのように大爆笑をなさっている。

膝を折って地べたに座り込んで、
こぶしで地面を叩きながら笑う。

膝を抱え寝転んで、
しまいには体を草の上に転がしながら笑い続けていらっしゃる。

私は、
コウス様がおかしくなったのではないか? と当時は不安に思った。

後で思い返せば、
いくら豪胆なコウス様といえ、
たった二人で敵の館に乗り込むのは恐ろしく、
それでその不安を打ち消すかのように、
大笑いをされていたのだろう。

笑いすぎて、
せっかくの化粧も着付けもとれてしまった。

またきれいに化粧と身づくろいをするとコウス様と私は、
つれだってクマソタケルの館まで行った。

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