『クマソタケルの館にて』 第1章【フリー朗読台本:短編小説】

高い門の周りに、
若い女性が蟻のように集まって、
列になっている。

ここに来るお客相手に一晩お酌をすれば米俵一俵、
というのはクマソの庶民にとっては相当な魅力らしい。

門には槍を持った、
背が高く、
筋肉質で、
濃い顔立ちの男が、
四人組になって立っている。

集まってきた娘達の、
身元を問いただして、
怪しい者がいないかどうか確認しているようだった。

かなり細かく聞いているので、
どうなることやら、
と思っていると、
コウス様の番になった。

男は強面をいっそうこわばらせて、
だれの娘だ? 年はいくつか? と尋ねる。

コウス様が器用に女声で、
鍛冶屋のテツヒコの娘で十七歳です、
とお答えになる。

するとおや、
と思うほど簡単に、
じゃあ、
行け! と言って通してしまった。

次に私も名前を聞かれたので、
どうしよう、
とあせっていると、
こちらは私の姉で二十歳、
とすばやく私に代わってお答えになったので助かった。

男の横を通るときに、
ふと振り返ると男は色黒の顔を耳から真っ赤に染めている。

案内役の腰の曲がった老婆に導かれていく。

他の娘達と共に、
両脇に高見台のついた、
それぞれ数名の門番のいる門を三つほどくぐる。

その後、
無数の藁葺き屋根の米蔵の合間を、
沢山の奴隷や召使が行きかいしている中を通りぬけた。

途中で手かせ足かせをはめられた、
数珠繋ぎになった
二、三十人の男とすれ違った。

武器を持った男に連れられて歩いていく。

私達とすれ違った所で、
皆揃ってコウス様の方に顔を向け、
きれいな娘だ、
でも何処かで見たことないか? とざわめいている。

どうやら捕虜になったわれわれの兵達のようだった。

他にもたんかに乗せられた傷ついた兵士達とか、
壊れた武器を担いでいる男達とか、
稽古にはげむ芸人達などの間を通り抜ける。

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