『クマソタケルの館にて』 第2章【1人用朗読(声劇)台本】

1人用声劇台本まとめページ
左の手を軽く握り顎(あご)の下にあて、
兄弟の話をじっと聞き入る。

かと思うと、
両手を胸の前でぱっと広げ「まあ!」と驚いたそぶりをお見せになる。

それからまた両手を胸の前で合わせて、
ふんふんとうなづきづきながら兄弟の話を聞いていらした。

しばらくすると細い指を花のような形にして、
お下げにつけた髪飾りをもてあそびながら下を向いて恥ずかしそうに

「わたくし、
そんなことはわかりませんわ」

にやけた顔のクマソタケル兄弟に挟まれて、
数秒の間黙りこくって、
膝に置いた手をじっと見つめていらした。

しばらくすると、
何かに気づいたように濃い睫毛で縁取られた目をぱっと見開く。

両手の指をやさしく、
つまむように瓢箪に添える。

少し下を向き、
お辞儀をするように背を前に倒し、
空になった杯に酒をそそがれた。

「やあ。
さっきは変なこと聞いて悪かったよ。
それにしても君、
実にいいねえ。
誰の娘だ? 年はいくつ?」

とクマソタケル兄弟に問われ、

「鍛冶屋のテツヒコの娘で十七歳になります」

クマソタケルの弟の方が、

「十七歳でこの色気! 僕、
君みたいな娘(こ)、
大好きだよ!」

と喜びながらコウス様の白魚のような手を握る。

今度は兄の方が負けじと太い腕を伸ばして、
コウス様の肩を抱く。

コウス様は目を真ん丸くして、

「あら!」

とおっしゃったきり下を向いて袖で顔を隠されたのだが、
すぐに顔を挙げ目をきらきらと輝かせた。

にこにことしながら兄弟の話をいかにも興味ありそうに聞いていらっしゃる。

「まあ素敵。
すごいすごい。
なんてお素敵。
おすごいですわねえ!」

「いやあね。
あんな風にだけはなりたくないわね」

娘がげじげじ眉をしかめ、

皺のよった厚い唇を尖らせる。

私は、
ええ、
そうね、
と同調した。

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