『クマソタケルの館にて』 第2章【1人用朗読(声劇)台本】

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話を聞いていると
クマソタケル兄弟が、
コウス様相手にしている自慢話は、
なんとコウス様相手の武勇伝だった。

「あの生意気な若造が、
お父ちゃんにもらったとかいう、
やたら沢山の兵隊とか、
豪勢な武器とか、
良い馬とかを見せびらかしにきたが、
みんななぎ倒してやったよ」

「いろいろと装備は立派だったが、
しょせんおぼっちゃんが率いる軍隊だから、
こっぱみじんにするのは簡単だった」

「まあ素敵。
すごいすごい。
なんてお素敵。
おすごいですわねえ!」

にっと不自然な作り笑いをしながら、
お酌をなさるコウス様の目は、
獲物を捕らえる前の獣のように、
ぎらついた光を放っていた。

コウス様から、
死んでも飲むな! と念を押されていたから、
その晩は一口も酒を飲んでいなかった。

それなのに、
まわりの酔っ払い達の雰囲気に影響されたのだろうか?

女の格好なんかしていたからだろうか?

煌々と光り輝く、
妙に赤みがかり、
いつもより大きく見える満月のせいだろうか?

敵の陣地の、
ど真ん中に乗り込んでいるなんていう実感がまったくなく、
ふわふわと雲の上を浮いているような気分だった。

満月を背に、
長い橙色の袖を翻しながら、
天女が舞踊る。

顔には赤化粧を施し、
真紅の鉢巻、
メノウの首飾り、
やはり真紅の帯に、
赤い前掛け、
そして赤く塗られた剣先のようにとがった爪……

「あれで男だなんて!」

そう叫ぶ声が聞こえ、
私は急に冷水をかけられたような気分になった。

着物の下に隠し持った二本の短剣を、
いつでも出せるように気構えながら、
コウス様を探した。

ところがコウス様が何処にもいらっしゃらない。

目に映るのは、
けばけばしい着物に毛皮を羽織った髭面で眉毛の濃い男達と、
日に焼けた頬の赤い丸顔の娘達ばかりだった。

あのコウス様の水晶のように涼やかなお顔は、
いくら探しても見当たらない。

男だと知られて捕らえられてしまったのだろうか?

今頃尋問にあっているのだろうか?

どうしようか?

この短剣をいっそのこと自分に向けて息絶えてしまおうか?

いや、
その前にクマソタケルの兄か弟だけでも刺してからにしよう。

そう覚悟して今度はクマソタケルを探したが、
いかついクマソの男達の中でも、
とりわけ獣じみたあの二人も、
いつの間にかいなくなっている。

もうあの自分勝手なコウス様なんか見捨てて、
尋問を受けているコウス様が、
私のことをしゃべらないうちに、
一人で逃げてしまおうか? 急にそう思い立った時に、

「これで男だなんて!」

さっきと同じ声がした。

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