『クマソタケルの館にて』 第2章【1人用朗読(声劇)台本】

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ついに自分も男だとばれたのだろうか? 声のする方を恐る恐る振り向くと、
声の主は、
先ほど私がお酌をした翁(おきな)で、
彼の前には天女が立っていた。

「お嬢さん来たまえ!」

そう言われて、
すごすごと翁(おきな)の前に行き、
天女を目の前にすると、
彼女のあご周りには髭がぼつぼつ生えていて、
やせた首にはのど仏が見えた。

どうやら女の格好をして踊る芸人のようだった。

「これで男!」で「あれで男!」なのはコウス様でも私でもなく、
この男のことだったようだった。

私が安堵のため息をついていると、

「マイヒコ殿、
この娘にどうしたらもう少し女らしくなれるか、
教えてやってくれよ。
このままじゃお嫁の行き先がないだろうから」

この翁(おきな)は、
私が宴会場に上がってすぐにお酌をした人だった。

その時に彼は私の顔が面白いと褒めてくれた。

質のよさそうな衣(きぬ)を着ていることからも、
首から提げた玉(ギョク)の首飾りからも相当な地位の男らしかった。

私の将来を心配してくれていたようで、
そのマイヒコという名の女形芸人に、
そう頼んでくれたのだった。

マイヒコもよい人らしく

「杯を持つときは、
そう五本の指でつかむんじゃないよ。
こう親指と人差し指から薬指までを合わせて、
つまむように持って、
小指をちょっと浮かすんだ」

などと親切に、
わざわざ、
クマソの男にしては白く細い指で杯を持ってお手本を見せてくれた。

いつの間にか、
さっきコウス様の悪口を言っていた娘がやってきた。

マイヒコが言うとおりに、
赤く太く短い指で、
つまむように杯を持ってみせ、

「先生? こうですか? わあ! 私の指なのに何だかとっても可愛く見えるわ!」

と喜んでいる。

私もやってみるようにマイヒコと翁(おきな)から促されたが、
とてもそれどころではなかった。

コウス様もクマソタケル兄弟も何処に行ったのだろう?

コウス様ときたら、
また私に一言も相談せずに、
勝手なことをなさって、
本当に困る。

コウス様とクマソタケル兄弟が、
何処に行ったのか、
翁(おきな)に聞いても、
マイヒコに聞いても、
まるで知らない。

娘にも知っているか? と尋ねると

「さあ、
何処に行って、
何をしているかしらね。
ああ、
知りたくもないけれど、
いやらしいわね」

と当初はすましていたが、

「本当に何処に行ったのかしら?」

と私がしつこく気にしていると、
知りたくない、
と言っていたわりには三人の話をよく聞いていたようだ。

三人はおそらくあそこに行っただろう、
ここに行っただろう、
とかなり細かく教えてくれた。

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