「でも何故、
あなたそんな気になるの?」
「だって妹だもの」
「ええ! 知らなかった……ごめんなさい」
「いいのよ。
私だってあんな妹、
大嫌いだから。
無謀で独りよがりで急にいなくなるし」
私は思わず日ごろのコウス様に対する不満を娘にぶちまけた後、
コウス様を探しに、
けたたましい一気飲みの掛け声を背に外に出た。
夜風に吹かれると、
体中の毛が肌をくすぐり、
幅の広い袖や長い裾が腕や脚にまとわりついた。
ぷんと鼻につく土のにおいの中、
少し歩く。
宴会の賑わいは次第に小さくなり、
今度は虫の大合唱が耳につくようになった。
娘が言うには、
クマソタケルは裏の池の周りの南天の木のそばで酒を飲みつつ、
棒術の試合をすることになったらしい。
コウス様は二人のお世話をするためについていったそうだ。
たまにぽつぽつと通りかかった人に行き先を聞き、
裾が夜露にぐっしょりと濡れた頃にたどりついた場所には、
池に沿って南天が植えられていた。
そこには、
あれよりはぐっと小さいけれど、
宴会場によく似た形の、
池に張り出した建物が建てられていた。
今晩のような月夜に酒を飲むには丁度よさそうな場所だった。
あたりには全く、
人気がない。
何か目印はないかと地面に目をやる。
南天の実が一粒一粒列になって落ちていて、
丁度建物に上がる階段のところにまでつながっていた。
階段を上りきると、
暗くてよく見えない。
床に灯りを当てると、
また転々と南天の実が朱塗りの簾まで続いている。
南天をたどって目線を動かすと、
簾の後ろから人間の足の爪らしきものが見えた。
私は着物の下の短剣の上に手をやりながら、
前に進む。
親指が見えて、
血管が浮いた足が見えた。
足首が見えて、
森のようなすね毛が生えたふくらはぎが見える。
ふくらはぎの真ん中ぐらいに女の着物がかかっていた。
愛らしい娘の姿のコウス様が柱に背中をもたれ、
ひざを抱え座りこんだまま長い睫毛を伏せ、
ぽかんと口を開けうつむいていらした。